消去法による弁護士選び(いかに情報を絞り込むか)
何を基準に弁護士を選ぶべきか。一言でいえば,弁護士の能力,人柄,弁護士費用(費用対効果)の3点が重要な判断要素になると思います。ただ,具体的にそれらをどのように判断するのかは難しい問題です。
弁護士の能力や人柄は,なかなか外部からは見えません。
弁護士の能力を見極めるのはほぼ不可能
ホームページ上の実績や取扱分野などは弁護士の能力を判断する一つの目安になります。しかし,そもそもホームページ上の実績や取扱分野が本当かどうかも分かりませんし,仮に本当であったとしても,それだけで弁護士の能力を測れるものではありません。特に,一般の方々が弁護士の能力を見極めるのはほぼ不可能ではないかと思います。
また,弁護士の人柄については,ホームページ上の文章の表現や内容,顔写真の雰囲気などが一つの目安になります。しかし,悪人が文章で善人を装うこともできますし,人相が必ずしも人柄を表しているわけでもありませんので,それだけで弁護士の人柄を見極めることは困難です。
さらに,弁護士費用(費用対効果)についても,単純にホームページ上に掲げられた金額の多寡だけで判断するのは危険です。そもそもすべての事件類型について事細かく弁護士費用を明記することは困難ですし,場合によってはホームページ上に掲載されていない費用が発生する場合もあり,その費用も事務所ごとにそれぞれ異なりますので,「ホームページ上の比較では安いと思われた事務所のほうが高い」ということもあり得ます。また,「弁護士費用が安ければそれだけ能力が劣るのではないか」と疑念を抱く方もいるかもしれません(実際にはそうでもない場合が多いのですが)。
結局,多くの人々は「ホームページ上のさまざまな要素を比較してみてもよく分からない」というのが実情ではないでしょうか。
そこで,ここでは,できるだけ具体的かつ簡略化した弁護士選びの方法をご提案したいと思います。
まず初めに指摘しておきますが,「ベストな弁護士選び」というのはほぼ不可能で,せいぜい「不適格な弁護士を排除して,一定水準以上の弁護士に候補者を絞り込む」ということくらいしかできないと思います。あとは,その候補者の中からご自身の直感で1人の弁護士を選択する,あるいは,絞り込んだ数人の弁護士に直接会ってみて相性の良さそうな1人の弁護士を選択するほかありません。この場合,候補者を絞り込む過程で,もしかしたら「良い弁護士」を排除してしまうかもしれませんが,やむを得ないと思います。特に,無益又は有害なものも含めて玉石混淆な情報が溢れかえっている現代社会では,情報の取捨選択は難しく,有益な情報をすべて拾い上げようとすれば切りがありません。
消去法による弁護士選びの方法
このような観点から,ここで提案するのは,無益又は有害な情報を排除するという「消去法による弁護士選びの方法」です。これは,私のこれまでの弁護士経験から「私ならこのような観点で弁護士を絞り込む」という基準を,一般市民の方々にも簡単に利用できるように整理したものです。なお,この基準は,相続,離婚,交通事故,債務整理,刑事事件,借地借家,消費者事件,中小事業者の取引上のトラブルなど,多くの弁護士が日常的に取り扱っている事件類型に関するもので,特殊性の高い事件については必ずしも妥当するわけではありません。
その「消去法による弁護士選び(絞り込み)」は次のとおりです。
① ホームページ上の「専門分野(〇〇に強い弁護士など)」,「取扱分野」,「実績(相談・取扱実績〇〇件など)」等の謳い文句はとりあえず無視する。
② 一定程度の弁護士経験(弁護士登録7~8年以上)がある。
③ 複数の弁護士が所属している法律事務所(特に新人・若手弁護士が多数を占める法律事務所)については,ホームページ上で各所属弁護士の情報(特に弁護士登録年数)が開示され,かつ,弁護士を指名して相談・依頼できるシステムになっている。
④ テレビCMその他多額の宣伝広告費をかけていると思われる法律事務所は避ける。
⑤ 弁護士費用につき「着手金無料」や「完全成功報酬制」を謳っている法律事務所は避ける(法律相談料が無料であるか否かは問わない)。
⑥ ホームページ上で弁護士費用(報酬基準)がある程度明確に表記されている。
⑦ 弁護士費用(報酬基準)が旧日弁連報酬基準と比較して著しく高額でなく,かつ,その内容が合理的である(報酬基準に不合理な点が見られる法律事務所は避ける)。
上記①~⑦について説明します。
①については,そもそも 日本弁護士連合会(日弁連)の「業務広告に関する指針」(第3-12⑴)では,「専門」表示は一般市民に対する誤導のおそれがあるため差し控えるべきであるとされています。「強い」の表示も同様であると思います。 「専門分野(〇〇に強い弁護士など)」,「実績(相談・取扱実績〇〇件など)」等と謳っているか否かは,弁護士の能力と全く関係ありません。
②については,絶対的な基準ではありませんが,弁護士の能力を判断するうえで一つの目安になります。一般市民を対象にした「弁護士選び」に関する,あるアンケート調査によると,「弁護士経験が何年程度の弁護士に相談したいか?」という質問に対して,「10年以上」との回答が40数%で,それ以上(「20年以上」)との回答を含めると50%を超えるようです。私としては,必ずしも10年以上の弁護士経験が必要であるとは思いませんが,少なくとも7~8年程度の弁護士経験のある弁護士を選んだほうが無難ではないかと思います。もちろん,新人・若手弁護士にも有能な方はいますし,特に一般的な事件であれば新人・若手弁護士でも遜色ない場合が多いと思います。ただ,あれこれ悩まず簡便な方法で「不適格な弁護士を排除して,一定水準以上の弁護士に候補者を絞り込む」という観点からいえば,一定程度の弁護士経験を基準にしたほうが無難です。ちなみに,東京弁護士会が運営する一部の法律相談センターでは,若手弁護士の指導・育成を目的として,若手弁護士がベテラン・中堅弁護士の法律相談に同席して,事件を共同受任するという制度を実施していますが,この制度でも,弁護士登録5年以内の弁護士を「若手弁護士」(指導対象)と位置付けています。
③については,説明するまでもありませんが,せっかく自分で弁護士を選んだのに別の弁護士が自分の事件を担当することになったのでは意味がありません。一般市民が依頼するような事件では,その法律事務所にどんなに多くの弁護士が所属していたとしても担当者は基本的に一人ですので(特に上客でもない一般市民の事件は新人・若手弁護士が担当者になることが多い),法律事務所の規模や所属弁護士の数はほとんど関係ありません。
④については,テレビCMその他多額の宣伝広告費をかけていることが悪いとは言いませんが,宣伝広告費をかけているということは,それだけ利益をあげなければならないということです。もちろん,それだけ流行っているということもいえますが,「能力が高いから弁護士費用が高くても客が集まる」というよりも「宣伝広告の上手さや集客力の高さに乗じて強気に高い弁護士費用を設定している」という面が強いのではないかと思います。また,私が見る限り(多くのベテラン・中堅弁護士も同感だと思いますが),そのような法律事務所は,弁護士としての技術を磨き上げてきた,経験と実績のある事務所ではなく,テレビCMやインターネットを駆使した営業力で急成長した,新人・若手弁護士が大多数を占める新興の法律事務所です(ホームページで所属弁護士の弁護士登録年度を確認すればすぐに分かります)。
⑤については,当ホームページの「弁護士に専門分野はあるのか?(弁護士の探し方・選び方)」の「7.「着手金無料」や「完全成功報酬制」は本当か?(弁護士費用)」で説明したとおりです。
⑥については,やはり弁護士費用が明確に表記されていないと「いくらかかるのか」と不安になるのではないかと思います。また,一般市民を対象にした,あるアンケート調査によると,多くの人が「弁護士選び」の基準として特に重視するのが弁護士の人柄や人間性のようですが,弁護士費用を明確に表示しているということは,それだけ依頼者の立場に配慮しているともいえるので,より誠実で信頼できるのではないかと思います。
⑦については,「弁護士費用が安い(高くない)」という依頼者にとって当然のメリットであるだけでなく,⑥とも共通しますが,弁護士の人柄(信頼性)を客観的な基準で判断(推認)できる重要なポイントであると思います。
依頼者にとって,同じサービスであれば弁護士費用が安いに越したことはありませんが,必ずしも安ければいいというものでもありません。弁護士としては,事務所運営や事件処理をするうえで一定のコスト(労力・時間・経費)がかかりますから,弁護士費用を下げるにしても限界があります。依頼者から見ても,コストを度外視した弁護士費用を設定していれば「この弁護士は大丈夫なのか」,「何か裏があるのではないか」と不安になるのではないかと思います。そこで,単純な弁護士費用(報酬基準)の多寡ではなく,報酬基準が明瞭で合理的なものであるかという視点で見るべきではないかと思います。誠実な弁護士であれば,弁護士費用(報酬基準)も合理的に設定し,不合理な着手金や報酬は取らないと思います。したがって,一見すると,他の弁護士と比較して多少高いように思えたとしても,きちんと報酬基準を説明してその内容が合理的であれば,その弁護士を候補から外す必要はないと思います。逆に,報酬基準が不合理であれば,金額面だけでなく,その弁護士の誠実さも疑われるのではないでしょうか。少なくとも私はそのような基準で弁護士費用(報酬基準)というものを見ています。
弁護士費用の具体例
弁護士費用(報酬基準)の合理性という観点で,いくつか具体例を示します。
第一に,刑事事件で有罪判決の場合の成功報酬です。
有罪判決といってもさまざまなケースがあり,量刑相場からすれば実刑になるところ執行猶予を得た場合や,実刑判決にしても執行猶予付判決にしても刑期(懲役期間等)を量刑相場より減刑した場合に,成功報酬が発生するというのは当然であると思います。当事務所でも,このような場合には成功報酬が発生します。
しかし,量刑相場どおりの有罪判決の場合にまで成功報酬が発生する法律事務所もあります。
たとえば,覚せい剤取締法違反(所持・使用等)事件では,初犯の場合にはたいてい「懲役1年6月執行猶予3年」というのがお決まりの量刑相場です。このような事案で量刑相場どおり懲役1年6月執行猶予3年という判決になった場合でも成功報酬が発生する法律事務所があるようです。もちろん「量刑相場」をどのように判断するのか難しい事案もありますが,どう転んでも量刑相場どおりの判決が見込まれる場合にそのとおりの判決になったときまで成功報酬が発生するというのは不合理ではないかと思います。
第二に,離婚事件で年金分割について着手金や報酬を設定している法律事務所があります。
詳しい説明は省略しますが,離婚の際に夫婦の一方が他方に対して年金分割を請求するのは当然(常識)であって,この年金分割については,ほぼ例外なく,婚姻期間中の被用者年金の保険料納付実績を夫婦2分の1の割合で分割する(按分割合を0.5と定める)とされており,過去の事例でも,離婚訴訟や審判で0.5以外の按分割合が定められた例はほとんどありません。したがって,ほとんどありえない例外的な場合はともかく,そうでない限り年金分割について,弁護士がその能力や労力を駆使するということはないので,着手金や報酬が発生するというのは明らかに不合理であると思います。
第三に,債務整理(任意整理)事件で「減額報酬」を設定している法律事務所があります。
この「減額報酬」は,消費者金融や信販会社など貸金業者(債権者)に対して多重債務を負って契約どおりに返済することができなくなった依頼者(債務者)について,各債権者と交渉して債務額を減額させた場合に,その減額分につき一定割合(一般的には10%程度)を報酬とするというものです。たとえば,もともと債務総額300万円の債務者について,債務総額200万円で和解できた場合,減額分(100万円)の10%(10万円)が「減額報酬」となります。
ここで問題は「もともとの債務総額」をどのように捉えるかという点です。
平成22年6月18日に改正貸金業法及び出資法が施行されて以降,まともな貸金業者は利息制限法(上限利率は年15~20%)を超過する金利で貸付を行うことはなくなりましたが,それ以前は多くの貸金業者が利息制限法を超過する金利(前記の出資法改正直前は年29.2%が上限)で貸付を行っていました。そのため,前記の改正貸金業法及び出資法の施行以前から借入れをしていた債務者は,貸金業者との契約上,利息制限法の上限利率を超える債務を負っているため,これを利息制限法の上限利率に従って引き直すと,当然ながら債務総額は自動的に減額となります。
弁護士が貸金業者との間で任意整理の交渉をすると,利息制限法に従った債務総額が前提となります。たとえば,貸金業者との契約上の債務総額が300万円であったとしても,利息制限法に従って引き直した債務総額が200万円であれば,弁護士は,最高でも債務総額200万円を当然の前提として分割弁済の交渉を行います。したがって,契約上の債務総額と利息制限法に従って引き直した債務総額との差額(100万円)は,弁護士による交渉の成果といえないので,契約上の債務総額300万円を「もともとの債務総額」として,減額分100万円について「減額報酬」が発生するというのは,明らかに不合理であると思います(東京弁護士会法律相談センター報酬基準にも反します)。
少数派だとは思いますが,このような場合にまで「減額報酬」が発生するとしている法律事務所もあるようです。
なお,先ほどの事例で,場合によっては,一括弁済や短期分割弁済などを条件として,さらに債務総額200万円から減額して,たとえば債務総額150万円として和解することもあります。このような場合,「もともとの債務総額」を200万円として,減額分50万円(200万円-150万円)は,弁護士による交渉の成果といえるので,これについて「減額報酬」が発生するというのであれば問題ありません。
以上のとおり,各法律事務所のホームページを見ると,不合理ではないかと思われる報酬基準を設定しているものが見られる場合があります。このような報酬基準は,単に弁護士費用(着手金・報酬)が高いというだけでなく,その弁護士の人柄(誠実さや信頼性)もうかがわせるものではないかと思います。たとえば,相続事件を依頼したいと思っている人にとっては,離婚事件の年金分割は無関係だと思いますが,そのような方でも,法律事務所のホームページを見て年金分割について着手金や報酬が設定されていれば「そういう事務所なのだ」(他の報酬基準でも同様の考え方を採っているのではないか)という推測が働くのではないかと思います。
もちろん,先ほどの「不合理な報酬基準」というのも私の偏見や誤解かもしれません。したがって,皆さんが事件を依頼しようとする法律事務所の報酬基準について不合理であると思う点があったときには,何故そのような報酬基準になっているのか確認するのが一番ではないかと思います。もしかしたら合理的な理由があるのかもしれません。
ただ,いずれにしても,弁護士費用(報酬基準)の定め方は,各法律事務所で特徴が見られるケースもあり,それは単に依頼者が支払うべき弁護士費用の多寡という問題だけではなく,その法律事務所の誠実さや信頼性も推認させる一つの客観的指標になり,一般の方々でも分かりやすい弁護士選びの基準として使えるのではないかと思います。