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刑事事件の報酬基準の不合理性①(保釈)

 前回(平成31年1月13日)のコラムでは,消去法による簡便な弁護士選び(絞り込み)の基準の一つとして,弁護士費用(報酬基準)が合理的か否かということが,依頼者の費用負担の問題だけでなく,弁護士の誠実さや信頼性(良心的であるか否か)を測るうえで重要なポイントになるということを指摘しました。
 特に刑事事件の弁護士費用(報酬基準)は,法律事務所ごとの差が大きく,合理性を判断しやすいのではないかと思います。弁護士費用(報酬基準)をどのように設定するかは,その法律事務所の経営姿勢が表れているので,刑事事件の依頼を考えている方はもちろん,それ以外の事件の依頼を考えている方でも,弁護士選びの基準として,まずは,その事務所の刑事事件の弁護士費用(報酬基準)を見るということが有効な手段ではないかと思います。
 なお,弁護士選びの基準として,弁護士の能力は最も重要なポイントですが,その判断は難しく,特に一般の方々が弁護士の能力を見極めるのは困難であると思います。弁護士費用が高ければそれに比例して弁護士の能力も高いわけではなく,また,特に自白事件(犯罪事実を争っていない事件)では「誰がやっても結論に差がない」ということも多いといえます。したがって,少なくとも一般市民を対象とした法律事務所については,弁護士費用と弁護士の能力(成果)とは全く相関関係がないといっても過言ではないので,よく検討もせず「刑事事件専門」や「刑事事件に強い」などと謳って高い弁護士費用を設定している法律事務所に飛びつかないように注意してください。

 刑事事件の弁護士費用(報酬基準)については,①起訴前の弁護活動(特に逮捕・勾留されている被疑者について身柄解放に向けた弁護活動),②保釈請求(起訴された被告人の身柄解放に向けた弁護活動),③自白事件(犯罪事実を争っていない場合)の起訴後の弁護活動,④否認事件(犯罪事実を争っている場合)の起訴後の弁護活動といった形で,それぞれ着手金・報酬(成功報酬)が定められているのが一般的です。
 各法律事務所の弁護士費用(報酬基準)を見ると,それぞれの場合について不合理ではないかと思われる点が多々見られますが,1回のコラムでは説明しきれないので,数回に分けて連載します。なお,弁護士費用(報酬基準)の不合理性は,あくまでも私の見解であって,もしかしたら不合理ではないかもしれませんので,私の説明を踏まえて,皆さんが依頼しようと思う法律事務所に「なぜそのような弁護士費用(報酬基準)を設定しているのか」を尋ねて,ご自身で判断してください。

 今回(第1回目)は,私が特に気になっている「保釈」の着手金・報酬(成功報酬)について説明します。
 まずは,簡単に保釈の流れと手続について説明します。
 逮捕・勾留(身柄拘束)された者が起訴されると,通常はそのまま裁判が終結するまで勾留が続きますが,保釈請求してこれが認められると保釈(身柄解放)されます。保釈にあたっては,保釈保証金(逃亡や証拠隠滅を防止するための担保金)を裁判所に納付する必要があります。その金額は被告人の資力や事件の内容等を考慮して決められますが,一般市民の自白事件で執行猶予が見込まれるような場合は150万円~200万円程度とされています。なお,保釈にあたっては,定められた場所に居住しなければならない,逃亡や証拠隠滅を疑われるような行為をしない,被害者と接触してはいけないなどの保釈条件が定められますが,保釈条件を守っていれば,裁判終結後に保釈保証金はそのまま返還されます。
 保釈が認められるか否かは,被告人が犯罪事実を争っているか否か,事件の内容(犯罪の性質や共犯者の有無等),被告人の経歴や生活状況,確かな身元引受人の有無等から逃亡・証拠隠滅のおそれがあるか否かなどによって判断されます。これらの事実関係を整理した保釈請求書を裁判所に提出して裁判官と面接するなどして保釈を求めるというのが保釈における弁護活動ですが,これらの事実関係は比較的明白であって特に困難な立証等を要するものではありません。したがって,保釈が認められるか否かは弁護人の能力とあまり関係がなく,弁護活動の実質は,保釈請求書の提出や裁判官面接,保釈保証金や身元引受人の手配など比較的単純な事務作業にすぎません。

 さて,ここからが本題です。
 保釈の弁護士費用については,起訴後の弁護活動としての着手金のほかに別途,保釈としての着手金は発生せず,保釈が認められた場合の成功報酬のみ発生するという法律事務所は数多く存在します。依頼者にとっては,成果(保釈決定)がない限り費用が発生しないという点でメリットがあると思います。
 ちなみに,当事務所では,保釈の弁護士費用について,起訴後の弁護活動としての着手金(20万円ないし30万円)のほかに別途,保釈としての着手金も発生することとし,1回目の保釈請求は着手金7万円,2回目以降の着手金は各3万円とし,成功報酬は3万円としています(いずれも消費税別)。保釈請求には回数制限がないため,弁護人としては,依頼者の要請があれば何度でも保釈請求をしなければなりません。場合によっては,保釈が認められる見込みがない事案で何度も無駄な保釈請求をするということもありえます。2回目以降の保釈請求では,1回目の保釈請求書をベースに多少の手直しを加えればいいので,それほど大きな手間はかかりませんが,それにしても,弁護人としては,適切な時期に保釈請求をし,無駄な保釈請求は控えたいところです。そのような趣旨で,当事務所では上記のような報酬基準を設定しました。保釈に関して成功報酬のみが発生する事務所でも,概ね10万円程度が成功報酬の最低額なので,当事務所の報酬基準でも割高にはなりません。
 成功報酬の金額は,法律事務所ごとに大きな差があり,定額制では10万円~50万円とさまざまです。なかには50万円を超える事務所もあるかもしれません。これを高いと見るか安いと見るかは人それぞれかもしれませんが,先ほどのような弁護活動の実質を見ると,10万円や20万円であればいいですが,それを超えるとちょっと高いような気がします。
 さらに,たとえば保釈保証金の20%を成功報酬とするというように,保釈保証金の額を基準として成功報酬を設定している法律事務所も存在します。保釈保証金が200万円であれば40万円が成功報酬になりますが,このような報酬基準は不合理ではないかと思います。
 依頼者にとっては保釈保証金が安ければ安いに越したことはなく,弁護人としても,依頼者の利益のためにできるだけ保釈保証金を低額に抑えようと努めるのが本来の使命です。しかし,上記のような報酬基準によると,弁護人にとっては,保釈保証金が高いほど成功報酬も高くなるため,自らの利益を図って保釈保証金を高くしようと意図する弁護人が出てくるかもしれません。
 そもそも保釈保証金の額に比例して成功報酬を高くする合理的理由はありません。保釈保証金の額は主に被告人の資力によって決まりますが,有名人の保釈を見ればわかるように,被告人が裕福であれば,保釈保証金は数千万円にも億単位にもなります。たとえば,保釈保証金が3000万円であれば,上記のような報酬基準によると,成功報酬は600万円にもなります。先ほどの弁護活動を見ればわかるとおり,大した仕事をしていないにもかかわらずです。
 保釈保証金は保釈条件を守っている限り返還されますが,その金銭はいったん弁護人の預り金口座に返還され,それを弁護人が依頼者に返還するという運用になっています。つまり,弁護人は,保釈保証金から成功報酬を差し引いて依頼者に返還することによって,保釈保証金の範囲内で確実に成功報酬を回収することができます。保釈保証金の20%を成功報酬とするという報酬基準は,「取れるところからは高額な報酬を取ろう」という発想ではないかとさえ思われます。

 なお,刑事事件(起訴前の弁護活動など)の報酬基準の不合理性については,解決事例9「窃盗事件で逮捕翌日(勾留前)に示談成立により釈放された事案」をご覧ください。

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