宣伝広告(ホームページ作り)の難しさ | 専門分野と弁護士費用の疑問に答えます
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宣伝広告(ホームページ作り)の難しさ

 私は,最近,当事務所のホームページの企画・開設・更新を通じて,マーケティングや宣伝広告(集客)について,いろいろと考えているのですが,どうもスッキリしません。というのは,正直かつ丁寧に情報を伝えようとしても,誰も読んでくれなければ意味がありません。読んでもらうためには,いかに簡潔で分かりやすく情報を伝えるかが重要であって,たとえ虚偽や誇大表現になっても,単純明快な表現や視覚的・感情的な表現によって相手の心を掴んだ者の方が勝ってしまうようにも思われるからです。今や,多くの方々がパソコンよりもスマートフォンで情報検索するようになっているため,より一層,単純明快さや読みやすさが求められています。

 しかし,多くの方々が「弁護士に専門分野がある」と思っているように,一般の方々は弁護士業界の実情や弁護士の選び方を誤解していると思います。そのような誤解を解いて,正しい情報を丁寧に伝えたうえで,自らの宣伝広告をしようとすると,どうしても文章が長くなってしまい,単純明快に文章を書くことなど,ほぼ不可能です。「一般の方々に正しい情報を伝える必要などなく,虚偽や誇大表現になっても,宣伝広告(集客)に成功すればいい」と割り切ってしまえば,話はそんなに難しくありませんが,そんなことはしたくありません。

 宣伝広告には単純明快な表現や視覚的・感情的な表現が重要であるということは,古今東西共通する「常識」のようで,マーケティングや宣伝広告の専門家,これに長けた人は,この「常識」を踏まえて宣伝広告をしているようです。

ヒトラーの演説

 私が以前読んだ「ヒトラー演説」(中公新書・高田博行著)という本の「演説の理論」(65頁以下)という項目の中には,ヒトラーの言葉として,次のような記述があります。

 「ヒトラーは,『民衆の圧倒的多数が女性的な性向と態度をとり,冷静な熟考よりもむしろ感情的な知覚で自らの思考と行動を決定する』と考えている。大衆は,どうかお願いしますと下手に出て頼まれるよりも,こうしろと命令され支配されるのを好むのだとヒトラーは言う。」

 「多くを理解できない大衆の心のなかに入り込むには,『ごくわずかなポイントだけに絞り,そのポイントをスローガンのように利用する。そのことばを聞けば誰でもそのことばが指す内容を思いうかべることができるようにせねばならない。』したがって,『主観的で一面的な態度』が要請される。」

 「思想は,『知能や理性に働きかける論証によって』ではなく,『極めて単純な形式』によって群衆に受け入れられる。『群衆の心を動かす術を心得ている演説家は,感情に訴えるのであって,決して理性に訴えはしない。』群衆の心を動かす『イメージ』をことばによって呼び起こす際,『自由』とか『平和』といった『極めて意味の曖昧なことばが,しばしば極めて大きな影響力を持つ。』」

 ヒトラーは,演説の天才で,巧みな演説によって大衆の支持を得て,1924年の出獄(前年のミュンヘン一揆失敗により逮捕・投獄されていた)から,わずか4年後の1928年には国会で全491議席中12議席(得票率2.6%)を獲得し,さらにそのわずか5年後の1933年には国会選挙で92.2%を得票し,その翌年には首相兼総統に就任しました。しかし,それが悲惨な結果を招いたことは,皆さんもご承知のとおりです。

 多くの商品・サービスの宣伝広告もそうですが,宣伝広告に成功している法律事務所のホームページを見ても,ヒトラーが使ったような手法が用いられている場合が多いように思います。

できるかぎり実情を説明したい

 これらのホームページによく出てくる「〇〇専門弁護士」,「〇〇に強い弁護士」,「解決実績〇〇件」,「当事務所が選ばれる理由」などは,ポイントを絞った極めて単純な言葉で,その言葉自体には何の裏付けもなく,その内容は極めて曖昧です。しかし,くどくどその裏付けを説明するよりも分かりやすく(真実か否かはともかくとして),直感的に訴えかけてくる言葉です。さらに,これらのホームページでは,腕組みをして毅然としたポーズをとる弁護士の写真が掲載されていることが多く,もしかしたら一般の方々から見れば「頼もしく」思えるかもしれません。おまけに「本人じゃないだろう」と突っ込みを入れたくなるような加工・修正をしていると思われるハンサム(イケメン)な顔写真が掲載されている場合もあります。

 こんなホームページを見たら,その真偽はともかくとして,多くの方々が「頼もしく信頼できる弁護士である」と信じてしまうのかもしれません。それが広告業界の常識なのでしょう。特に,弁護士は社会的に信用性の高い職業であると思われているようなので(最近はそうでもないかもしれませんが),やむを得ないことかもしれません。私も,自分自身が弁護士でなければ,信じてしまったかもしれません。

 しかし,ヒトラーの演説にあるように,何だか人々をバカにしているように思います。「大衆は物事を理性的に考えず感情に流されるから,真実を語る必要はなく,うまく誤魔化して誘導すればいい」ということなのでしょうか。

 私はそうは思いません。一般の方々も,弁護士業界の実情を知る機会がないだけで,きちんと情報提供されれば,理性的に考えて弁護士を選択すると思います。だからこそ,当事務所のホームページでも,できるかぎり弁護士業界の実情を説明したうえで,「事務所紹介」,「弁護士費用(報酬基準)」,「解決事例」(未完成ですが)について,できるかぎり裏付けや根拠を示して正直に自己アピールをしたつもりです。

 ただ,読み返してみると,やはり文章が長く,単純明快さや読みやすさに欠けていると思います。こんなホームページで果たして皆さんにきちんと読んでもらえるのかという不安はあります。特に,スマートフォンではかなり読みにくいです。

 しかし,きちんと説明しようとする以上どうしても仕方がないことなので,単純明快さや読みやすさは半ばあきらめています。そんな事情なので,皆さんには,どうかご理解いただいて,お時間のあるときにでも,スマートフォンではなくパソコンで,じっくりとお読みいただきたいと思います。全部を読むのも大変なので,せめて「弁護士選びのポイント(弁護士のホームページの読み方)」と,「解決事例」の「9.窃盗事件で逮捕翌日(勾留前)に示談成立により釈放された事案」だけでもお読みいただければ幸いです。特に,この解決事例をお読みになれば,弁護士の報酬基準の仕組みや妥当性をよくご理解いただけると思います。

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