7.「着手金無料」や「完全成功報酬制」は本当か?(弁護士費用) | 専門分野と弁護士費用の疑問に答えます
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7.「着手金無料」や「完全成功報酬制」は本当か?(弁護士費用)

7.「着手金無料」や「完全成功報酬制」は本当か?(弁護士費用)

最近は「着手金無料」や「完全成功報酬制」という宣言文句を掲げる法律事務所をたまに見かけますが,私からすれば大いに疑問です。多くの弁護士も同意見だと思います。
 なぜ疑問なのか?詳しくは下記「『着手金無料』や『完全成功報酬制』は本当か?」以降をご覧いただくとして,まずは「どうすれば安心して弁護士に相談・依頼することができるのか」について,当事務所の受任システムをご覧いただき,ご参考にしてください。

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「着手金無料」や「完全成功報酬制」は本当か?

① 「着手金無料」や「完全成功報酬制」の疑問

弁護士選びの基準として,弁護士の能力や人柄の問題とは別に,特に気になるのが弁護士費用(着手金・報酬)の問題です。

法律事務所のホームページその他宣伝広告を見ると,弁護士報酬について「着手金無料」や「完全成功報酬制」などと謳っているのをたまに見かけます。依頼者側にとっては大変お得なので,このような甘い謳い文句に飛びついてしまう方も少なくないかもしれません。しかし,本当に「着手金無料」なのか「完全成功報酬制」なのか(本当にお得なのか),よく考えてみる必要があるのではないかと思います。

というのは,事務所側にとって「着手金無料」や「完全成功報酬制」は大変危険なことなので,本当にそんな危険を冒してまで集客しようとしているのか,逆に言えば,そのような危険を回避するために別の名目や口実(日当,事務費,裁判対応費用など)で対価(実質的な報酬)を確保しているのではないか,さらに,そのような危険を冒した分だけ余計に報酬を上乗せしているのではないか,とも考えられるからです。

事務所経営には,個々の事件処理に必要な実費だけでなく,事務所を維持・運営するためのコスト(事務所賃料,事務機器・事務用品の購入費・リース料,郵便・通信費,事務員給料等)がかかります。このような事務所の維持・運営費は,依頼者からの着手金・報酬によって賄われます。しかし,「着手金無料」や「完全成功報酬制」という場合には,個々の事件処理に必要な実費はその依頼者に別途請求するとしても,受任した事件で成果が出ない限り,利益を得られないだけでなく,事務所の維持・運営費すら賄えず,事務所経営が成り立たなくなる危険があります。

また,弁護士の仕事は,どんなに能力の高い弁護士が全力を尽くしても,依頼者にとって有益な成果が得られるとは限りません。しかし,どんな事件であっても,弁護士は一定の成果に向けて責任を負ったうえで時間と労力と費用をかけていますから,たとえ成果が得られなくても,それに応じた対価が発生して然るべきだと思います。その意味で,弁護士にとって,受任にあたって着手金を頂くことは,責任をもって業務を遂行するためにも大切なことです。

では,「着手金無料」や「完全成功報酬制」を謳っている法律事務所は,時間・労力・費用の負担を度外視して,事務所経営を危険にさらしてまで事件を受任しているのでしょうか。

まず,「着手金無料」や「完全成功報酬制」の典型として,過払金返還請求事件があります。

過払金返還請求事件に限って「着手金無料」や「完全成功報酬制」を採用している法律事務所は数多く存在します。当事務所でも,過払金返還請求事件(ただし完済事案ないし受任時に過払金発生が明らかな事案)に限っては「着手金無料」の「完全成功報酬制」を採用しています。これは,過払金返還請求事件が弁護士業務として極めて簡単で,時間・労力・費用の負担が小さく,かつ,受任時に成果(過払金回収)がほぼ確実に見込まれるからです。

交通事故(被害者側)でも,「依頼者負担0円」や「着手金無料」又は「完全成功報酬制」を謳っている法律事務所をよく見かけます。

ただ,「依頼者負担0円」というのは,依頼者が加入している任意保険で弁護士費用特約を利用できる場合であって,これは,どの法律事務所に依頼しても同じことですので,「依頼者負担0円」を謳っている事務所が特にお得というわけではありません。

また,弁護士費用特約を利用できない場合でも,「着手金無料」や「完全成功報酬制」を謳っている法律事務所がありますが,よく見ると,「着手金相当額(一定の金額)を報酬に上乗せする」とされていることが多いので,注意が必要です。その場合,法律事務所側としては,交通事故では加害者側の保険によって一定の賠償金回収を確実に見込めるため,「着手金分は事件終結時に報酬と一緒にもらおう」という趣旨ですので,実質的に着手金(着手金相当額)が無料になるわけではありません。最初に着手金を準備できなくても事件を依頼できるという意味ではメリットがありますが,着手金が発生する法律事務所でも,依頼者の経済状況に応じて着手金の後払いや分割払いを認めているケースも多い(当事務所でも着手金の後払いや分割払いに対応しています)ので,必ずしも「着手金無料」や「完全成功報酬制」を謳っている事務所がお得というわけではありません。

② すべての事件で「着手金無料」や「完全成功報酬制」を謳っている法律事務所の疑問

すべての事件について「着手金無料」や「完全成功報酬制」を謳っている法律事務所も稀に見かけます。

ただ,そのような法律事務所のホームページを見ると,明確な報酬基準を掲げている事務所が見当たらず,実質的に着手金が無料なのか,実質的に完全成功報酬制なのかよく分かりません。また,報酬(成功報酬)は一般的な報酬基準(旧日弁連報酬基準)よりも高めに設定されている事務所が多いようなので,注意が必要です。

すべての事件について本当に「着手金無料」又は「完全成功報酬制」であれば,報酬(成功報酬)の金額にもよりますが,依頼者にとっては大変メリットが大きいといえます。ただ,法律事務所側の立場から見ると,このようなやり方で事務所経営が成り立つのか,大変リスクが大きいのではないかと思えるので,本当に「着手金無料」なのか,「完全成功報酬制」なのか,何かからくりがあるのではないかと疑問の目で見てしまいます。

というのは,1つには,先ほどのとおり,「着手金無料」や「完全成功報酬制」という場合には,時間・労力・費用をかけているにもかかわらず,成果が出ない限り,利益を得られないだけでなく,最低限のコストすら回収できないという問題があります。もちろん,弁護士は多数の事件を受任し,そのすべての事件で成果が得られないわけではなく,統計的に見れば一定数の事件では成果が得られる(成功報酬が発生する)見込みがありますから,「着手金無料」や「完全成功報酬制」を採用しても,必ずしも事務所経営が成り立たなくなるわけではありません。しかし,それはあくまでも統計的な「見込み」であって保証されたものではありません。

さらに,より大きな問題は,依頼者と弁護士との契約(事件の依頼)は委任契約であって,依頼者はいつでも自由に契約を解除できるということです(民法651条1項)。依頼者は,弁護士による事件処理に問題があれば契約を途中で解除できるのは当然ですが,弁護士による事件処理に何の問題がなかったとしても,極端なことを言えば,依頼者の気分次第で契約を途中で解除することができます。

そうすると,弁護士が長期間にわたって時間・労力・費用をかけて事件処理をしてきたのに,途中で依頼者の都合で委任契約を解除されても,「着手金無料」又は「完全成功報酬制」によると,弁護士はその対価を一切受け取れないということにもなりかねません。もちろん,法律上では,委任契約が途中で終了したときには,受任者(弁護士)は履行の割合に応じて報酬を請求できるとされています(民法648条3項)。しかし,「着手金無料」や「完全成功報酬制」という場合に履行の割合に応じて対価(報酬)を受け取ることができるのかというと,疑問です。仮に「着手金無料」又は「完全成功報酬制」を謳っている法律事務所が途中解除の場合に履行の割合に応じた対価(報酬)を請求するとすれば,実質的には「着手金無料」でも「完全成功報酬制」でもないということになります。また,着手金が発生する法律事務所でも,依頼者の経済状況に応じて着手金の後払いや分割払いを認めているケースも多いので,「着手金無料」や「完全成功報酬制」を謳っている法律事務所が特にお得というわけでもありません。

また,「完全成功報酬制」を謳っている法律事務所の料金体系をよく見ると,明らかに「完全成功報酬制」とはいえないものもあります。たとえば,「着手金0円」としているのはいいのですが,成功報酬として「〇万円+経済的利益の〇%」というように定めている法律事務所があります。この料金体系によると,依頼者が完全敗訴で1円も獲得できなかったとしても,「〇万円」部分の「成功報酬」が発生することになってしまいます(「経済的利益の〇%」部分が0円になるだけです)。こうなると,もはや「完全成功報酬制」とはいえないはずで,一般的な法律事務所の着手金部分を「成功報酬」の「〇万円」部分にもってきただけで,実質的に着手金の後払いと同じです。こんな料金体系を「完全成功報酬制」などと表示してしまっていいのでしょうか。なお,このような理解は私の誤解かもしれず,もしかしたら完全敗訴の場合は「成功報酬」の「〇万円」部分も発生しないという定めがあるのかもしれませんので,「完全成功報酬制」としながら「成功報酬」として「〇万円+経済的利益の〇%」と定めている法律事務所に事件を依頼しようとする方は,依頼前に確認したほうがいいと思います(その法律事務所からは「めんどくさい依頼者だ」と思われるかもしれませんが)。

さらに,「着手金無料」や「完全成功報酬制」を謳っている法律事務所が,一般的な報酬基準(旧日弁連報酬基準)よりも高めに報酬(成功報酬)を設定していたり,「裁判対応費用」や出廷のたびの「出廷費用」を設定していたりすれば,結局は,お得であるどころか,着手金が発生する法律事務所よりも割高ということにもなってしまいます。特に,単純又は簡易な事案でもない限り,訴訟が長期化して出廷回数が10回を超えるようなことも少なくないので,出廷費用についてはたとえ1回当たり数万円であっても結構な金額になります。

そのほか,「着手金無料」や「完全成功報酬制」を謳っている法律事務所では,依頼者にとって勝訴の見込みが十分にあり,勝訴になれば大きな利益が得られる事件であっても,敗訴になれば全く対価(成功報酬)を得られなくなってしまうため,敗訴の危険を考えて(報酬を確保するために),安い金額で相手方と和解しようとする弁護士が出てくるかもしれません。

以上のとおり,「着手金無料」や「完全成功報酬制」と謳っていても,それが本当であるのか,着手金が発生する法律事務所よりもお得であるのか分かりません(むしろ割高になる可能性がある)ので,事件を依頼する前に,その点(特に委任契約書に「委任契約が途中で終了したときには,受任者(弁護士)は履行の割合に応じて報酬を請求できる」旨の記載がないか)をよく確認した方がいいと思います。

③ 弁護士費用(着手金・報酬)から見た弁護士選び

そうはいっても,最初に相談する弁護士を選ぶ場合には,やはり「着手金無料」や「完全成功報酬制」という言葉に魅かれて,そのような法律事務所に相談に行き,相談後に,実質的に「着手金無料」でも「完全成功報酬制」でもないということが分かったとしても,すでに相談した以上,何となく依頼しなければならないような雰囲気になってしまうかもしれません。そんなことにならないためにも,まずは,相談に行く前に電話で,

「委任契約(事件の依頼)が途中で終了したときにも,履行の割合に応じて対価(報酬だけでなく,日当,事務費,裁判対応費用その他いかなる名目であるかを問わず)が発生することは一切ないのか」を確認した方がいいと思います。

また,着手金が発生する法律事務所でも,依頼者の経済状況に応じて着手金の後払いや分割払いを認めているケースも多く,最初に着手金を用意できなくても事件を引き受けてくれる法律事務所も少なくないと思います。「着手金無料」や「完全成功報酬制」と謳っている法律事務所が途中解除の場合に履行の割合に応じた対価(報酬)を請求するのであれば,それはある種のごまかしともいえるので,きちんと着手金を明示している法律事務所の方がよほど正直で良心的であると思います。したがって,「着手金無料」や「完全成功報酬制」という謳い文句にはあまり期待を抱かず,着手金を含めて報酬基準をできる限り明確に表示しているかを見て,最初に着手金を用意できない場合には,着手金の後払いや分割払いも認めてくれるかという基準で,法律事務所を選ぶべきではないかと思います。

「着手金無料」や「完全成功報酬制」ではありませんが,「できる限り弁護士費用を抑えたい」という方のために「本人調停(訴訟)支援制度」もありますので,特に,離婚調停や遺産分割調停をお考えの方は,2018年10月4日のコラム「本人調停の勧め(離婚や遺産分割は自力で対応できる!)」をご覧ください。

なお,当事務所では,皆様からお問合せのあったすべての案件について,まずは無料診断(無料法律相談)で事件の見通しと弁護士費用の見積りを示して,皆様にご納得いただいたうえで受任しています(ご納得いただかなければ無料診断だけで結構です)。また,皆様の経済事情に応じた着手金の分割払いや後払いにも柔軟に対応しておりますので,お気軽にお問い合わせください。詳しくは「相談・依頼の流れ」と「弁護士費用(報酬基準)」のページをご覧ください。

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