インターネット普及がもたらした各種業界の下請化
葬儀業界では,インターネットの普及に伴って,異業種から新規参入した「ネット系葬儀社」が急成長しているようです。皆さんも聞いたことがあると思いますが,「イオンのお葬式」,「小さなお葬式」,「よりそうお葬式」などです。
経営難に追い込まれる下請け業者
これらネット系葬儀社は,葬儀業界に「明朗会計」や「低価格化」をもたらしたという点で,その功績は大きいと思います。しかし,ネット系葬儀社は,自社で葬儀を行うわけではなく,消費者からの受注を既存の中小葬儀業者に回してマージンを取るだけのようです。既存の葬儀業者としても,集客力ではネット系葬儀社に敵わないため,自ら顧客を確保できず,やむを得ずネット系葬儀社と提携して,その料金体系に従って,マージンを取られたうえに低料金での「下請け」に甘んじているようです。
ネット系葬儀社が設定した料金が下請けの葬儀業者の利益も考慮したものであれば,下請業者にとっても有り難いと思います。しかし,そんなことをしていては消費者に対して「低価格」を売りにできないので,必然的に下請業者の利益は犠牲にされてしまいます。そのため,自ら顧客を確保できない下請業者の多くが経営難に追い込まれているようです(以上,「週刊ダイヤモンド」2020年1月18日号の特集記事(26頁以下)参照)。
このままでは,健全で良心的な既存の中小葬儀業者までもが,マージンを取るだけのネット系葬儀社の勢力拡大によって押し潰されてしまいます。消費者が既存の葬儀業者と直接契約すれば,マージンをカットできる分だけ,消費者にとっても既存の葬儀業者にとっても利益となるはずです。何とか葬儀業界の努力によって,ネット系葬儀社を介さずに消費者と地元の中小葬儀業者とをうまくマッチングするようなシステムを構築できないかと思うのですが,難しいでしょうか。
業界全体のサービスの質の低下
インターネットの普及は,消費者が多くの情報を手軽に手に入れ,売り手を選別して「高い買い物」をせずに済むようになったという効用があると思います。特に,葬儀に関していえば,それほどサービスの質を問わず,最低限の手続・儀式に則ってできるだけ低価格で済ませたいという消費者も少なくないでしょうから,ネット系葬儀社は消費者のニーズに適っているのかもしれません。
しかし,サービスの質が問われる(特にサービスの質の見極めが難しい)業界では,そうはいきません。ネット上の情報が必ずしも正しいとは限らないので,ただ単に集客力や宣伝広告力だけに長けた者に顧客が集中し,多くの消費者が「質の悪い」サービスを受ける羽目になります。こんな事態が続けば,その業界内において,能力があって誠実な者が,集客力や宣伝広告力に勝るだけの者に押し潰され,あるいは,その下請けに組み込まれることになります。これは,業界全体のサービスの質の低下を招き,消費者にとっても不利益になるのではないでしょうか。
仕事というのは,単なる金儲けの手段ではなく,生きがいや自己実現の場でもあると思います。しかし,インターネットの普及やAIその他科学技術の発展は,あらゆる業界の仕事を単なる金儲けのための手段にし,その業界に生きる人々から仕事を奪い,あるいは彼らを下請けに組み込んで,業界を荒らし回っているような気がします。これを「自由競争」と言えばそのとおりかもしれませんが,問題は,各業界における技術力などで競い合っているのではなく,いずれの業界でも集客力や宣伝広告力あるいは「金儲けの上手さ」で競い合っているということです。特に,消費者からサービスの質が見えにくい業界では,その傾向が顕著であるといえます。
弁護士業界もその典型例ではないかと思います。