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たまには「99.9-刑事専門弁護士-」のような事件もある?

 現在,TBSの日曜劇場「99.9-刑事専門弁護士-」(嵐の松本潤主演)が放送され,何かと話題になっています。皆様もご承知かとは思いますが,いろいろな意味で,このドラマは実際の弁護士像や裁判の実態とはかけ離れています。特に,このドラマでは,主人公の弁護士深山大翔(松本潤)が,毎回,難解な隠された事実を暴いて,依頼された事件を勝利に導いているようですが,民事でも刑事でも,実際には,難解な事実が発見され,それが証拠によって明白に立証されて,スカッと解決するようなことはほとんどありません。多くの事件では,初めから事実自体は明白であり,それをどのように主張し法律構成するのか,あるいは,事実関係が最後まではっきりしないまま,それをどのように主張立証し,裁判官を説得するのか(自己に有利な事実認定をしてもらうのか)ということが問題となります。
 仮に訴訟の勝敗を決するような重要な事実を発見し,それを証拠によって明白に立証したと思っても,それをどう判断するかは裁判官次第です。裁判所が,平然と科学的にあり得ないような判断をし,判決書の中でも,論破し難い当事者の主張立証には触れず,的外れな理由付けで当事者の主張をあっさりと退けることなど,日常茶飯事です。こちらが一生懸命に主張立証して「勝った」と思っても,説得的な理由で裁判所に論破されたのなら,こちらとしても諦めがつきます。しかし,こちらの重要な主張立証には触れず,的外れな理由付けで,おかしな判断をされたのでは,到底納得できるものではありません。多くの弁護士が感じていることだと思いますが,これが弁護士をやっていて最も虚しさを感じることです。

 私が経験した事件でも,次のようなことがありました。
 Aさん(被保険者)が自宅マンションのベランダ(5階)から転落して死亡し,Aさんの母親の甲さん(保険契約者)が生命保険会社乙社に対し災害死亡保険金の支払いを求めて訴えを提起したという事件です。私は,甲さんの訴訟代理人となりました。乙社の訴訟代理人は,テレビなどでもお馴染みの有名なベテラン弁護士B先生です。
 この保険契約では,事故死(不慮の事故)の場合には保険金が出ますが,自殺の場合には保険金が出ません。Aさんには長年にわたる覚せい剤使用歴があったため,B先生は,Aさんの転落死は覚せい剤使用等の影響による自殺である(不慮の事故ではない)と主張し,私は事故死であると主張し,事故死であるのか自殺であるのかが争点となりました。

 私が事故死であると主張した理由は次のとおりです。
 関係各証拠によると,Aさんは,最後に覚せい剤使用で逮捕されてから3年以上も覚せい剤を使用した事実は認められず,刑務所出所後は病院に通院して治療を続け,精神的にも安定し,転落死の数日前には新たな就職先も決まり,真面目に仕事をしていました。また,転落死直後の室内には,Aさんが覚せい剤を使用した形跡はありませんでした。一方で,ベランダの壁面(高所)には雑巾がけをした形跡があり,ベランダには雑巾と水の入ったバケツが置いてありました。さらに,ベランダに設置されていたエアコン室外機を確認すると,しっかりと固定されておらず,ベランダ手摺側に重さをかけると傾くような状態でした。そのため,Aさんが室外機の上に乗って雑巾がけ等の作業をしていたところ,ベランダ手摺側に体重をかけたときに室外機が傾いてバランスを崩し,ベランダから転落したのだと推測しました。
 第一審では,私の主張が認められて勝訴しました。しかし,控訴審では,裁判官の態度がガラッと変わり,和解の話合いの席で,B先生の主張どおりの心証であると明確に断言していました。私は,このままではまずいと思って新たな事実とその証拠を探し,一つの重要な事実を発見しました。

 それは,転落現場の遺体の位置・向きです。関係各証拠によると,Aさんは,道路側に頭を向け,マンション建物側に足を向けて,仰向けの状態で倒れていました。この事実からどんなことが推測できるのか,皆さんは分かりますか?
 テレビにもよく出演されていた元東京都監察医務院監察医・同院長の上野正彦先生の著書によると,人が高所から飛び降り自殺を図った場合,まず両足から直立に近い形で着地し,次にその衝撃で身体を「く」の字にして尻もちをつき,さらに両脚を伸ばしたまま身体がエビのように前屈体勢で大きく曲がり,その反動で上半身が起き上がって,最後には仰向けで倒れた状態になる,ということです。人が高所から飛び降りて自殺しようという場合,通常は正面を向いて(道路側を向いて)飛び降りるでしょうから,仮にAさんが自殺を図ったのであれば,上野先生の説明によると,その遺体はマンション建物側に頭を向け,道路側に足を向けた状態で発見されるはずです。ところが,遺体はその逆の向きで発見されたのですから,Aさんは背面から転落したことになります。その事実は,Aさんがベランダでエアコン室外機の上に乗って壁面に向かって雑巾がけ等の作業をしていたところ,誤ってバランスを崩して転落したという推測と一致します。
 私が上野先生の著書を引用してそのような主張をしたにもかかわらず,控訴審裁判所は,この点に対し合理的な反駁を加えないまま,さらに,これとは別の科学(身体運動学)的法則に反する事実認定までしたうえで,Aさんは自殺したと断定し,甲さんの敗訴判決を下しました。

 私がここで強調したいのは,B先生も私の主張に危機感を抱いたと思われることです。私が上記のとおり遺体の位置・向きに関する主張をしたところ,B先生は,突然,甲さんが保険契約締結の際にAさんの覚せい剤使用歴等の事実を申告していなかったことが告知義務違反であるとして,保険契約自体の錯誤無効を主張し出したのです。契約無効などは,それまで一度も主張されておらず,争点にもなっていなかったにも拘わらずです。控訴審になって,いきなり全く関係のない新たな主張をすることはルール違反(時機に後れた攻撃防御)です。それにもかかわらず,B先生があえてこのような主張をしたということは,私の主張に説得力があると感じたからだと思います。
 しかし,結果は先ほどのとおり敗訴です。難解な事実を発見してそれをうまく立証したと思ったのですが,「99.9-刑事専門弁護士-」のようにはうまくいかないものです。

 この事件については,他にもいろいろな事実の争いがあって,弁護士がいかに証拠を収集して立証活動を行うのかを知っていただくのに格好の事例ですので,別の機会に改めて,解決事例3「ベランダからの転落死と死亡保険金請求」として,詳しく解説したいと思います。

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