非婚化・少子化問題を考える(結婚・離婚制度の問題点) | 専門分野と弁護士費用の疑問に答えます
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非婚化・少子化問題を考える(結婚・離婚制度の問題点)

 日本において,少子化・人口減少問題は,高齢化,経済,財政,ひいては国の存亡にも関わる重大な問題であるといっても過言ではありません。そのため,いかにして出生率・出生数を引き上げるかが議論されています。日本では婚外子が一般的でないため,現実的には,非婚化の流れを食い止め,多くの国民(特に若者)が結婚して,できるだけ多くの子どもを産み育てたいと思うような環境を整えることが重要であり,そのためにどうすればいいのかを考える必要があります。

 なお,そもそも国の施策として非婚化や少子化を食い止めて人口の維持・増加を図るべきなのかという問題があります。また,少子化を食い止めるべきであるとしても,非婚化の流れを止める必要はなく,むしろ結婚制度を廃止すべきであるという大胆な意見もあり,それなりに説得的な理由が示されています。ただ,ここでは,それらの問題は一先ず措いて,非婚化・少子化の流れをどうやって止めるべきかを考えてみたいと思います。

結婚するか否かには経済原理が働く

 人が結婚・出産する目的は,個々人によって異なるでしょうが,一般的・抽象的にいえば,その人の幸福のためであって,結婚・出産するか否か,誰と結婚し,何人出産するかなどは,その人の自由意思(選択)に委ねられています。戦前は,「家」を守るために両親の意思に従って結婚し出産するということもありましたが,現代では,婚姻は両性の合意のみに基づいて成立し(憲法24条1項),婚姻や家族に関する法律は個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならないとされています(憲法24条2項)。

 結婚や出産が個人の自由意思に委ねられているのであれば,当然,そこには経済原理(損得勘定)が働きます(ここでいう「経済原理」とは,金銭的・物理的価値だけでなく,より広く精神的価値も含めたメリット・デメリットに基づく価値判断を指します)。かつてノーベル経済学賞を受賞したベッカー教授の「結婚の経済学」という著書が話題となりましたが(平成4年ころ),その著書でも,結婚相手の選択や出産が経済原理に基づいて行われるということが,具体的データに基づいて解説されていました(だいぶ前に読んだので詳細は覚えていませんが)。その当時は今のように非婚化が進行しておらず,また,アメリカ合衆国(ベッカー教授の母国)の状況は日本と異なるので,著書の中では非婚化の問題はあまり深く論じられていなかったと思いますが,結婚するか否かの選択においても,同じく経済原理が働いているはずです。

 したがって,多くの国民が結婚して,できるだけ多くの子どもを産み育てたいと思うような環境を整えるためには,経済原理(メリット・デメリット)に基づいた法制度や政策が必要になります。そして,結婚・出産は両性の合意によって成立・実現するものですから,一方のみではなく男女双方にとってメリットを感じられるものでなければならず,公平原理(両性の平等)に立脚していなければなりません。一応は憲法でもそのように謳われていますが,実際の結婚(離婚)制度が個人の尊厳と公平原理(両性の本質的平等)に立脚しているかというと,次のとおり疑問点もあります。

実際の結婚制度の疑問点

 第一に,離婚の自由が制限されていることです。

 もちろん,結婚は人生において重大な決断であり,2人で合意して結婚した以上,一方の勝手な意思で簡単に離婚を認めるべきではありません。その意味では,離婚の自由が制限されるというのは当然です。

 しかし,離婚の自由を制限することが不合理であると思われるケースもあります。

 たとえば,結婚したとたん,夫が仕事を怠けがちになり,妻の収入に頼って浪費をするようになったという場合,妻が直ちに離婚しようとしても離婚が認められるとは限りません。夫が離婚に応じない限り,法律(民法770条1項)上の離婚事由(婚姻を継続し難い重大な事由など)がなければ離婚は成立せず,そう簡単には離婚を認めてくれません。確かに,できる限り夫婦関係修復に努めるべきかもしれませんが,実務ではこの点が厳しく求められすぎているような気がします。婚姻関係は,夫婦が互いに尊重し合い,相互の協力によって維持されなければなりません(憲法24条1項)。したがって,結婚当初から相手に誠意が見られないような場合には,広く離婚が認められるべきであると思います。

 このようなケースで,離婚したくても離婚できず,気の休まらない日々が続いて苦しんでいる人が少なくないと思います。

 第二に,離婚の際の財産分与や親権・養育費の問題です。
 まずは財産分与です。

 婚姻期間中(結婚から別居ないし離婚までの期間)に夫婦の収入によって形成された財産は,夫婦間にどれだけ大きな収入格差があろうとも,折半するというのが基本です。たとえ夫が高額所得者であり,妻が無収入であっても,折半が基本です(その逆も同様です)。夫(妻)の高収入は妻(夫)の内助の功のおかげだということなのでしょうか。

 確かに,そのような場合もあると思います。たとえば,夫がミュージシャンで,妻がその不遇時代の生活を支えていたところ,夫がついにメジャーデビューを果たして大金を稼ぐようになり,その後,離婚した場合には,夫の財産形成に多大な貢献をした「糟糠の妻」は,財産分与として半分の財産を受け取ってもいいのではないかと思います。

 これに対し,たとえば,夫が結婚前から一流のプロ野球選手として大金を稼いでおり,その「玉の輿」として結婚した妻が夫と離婚した場合に,財産分与として半分の財産を受け取るというのは不公平ではないかと思います。

 次に親権と養育費の問題です。

 離婚した夫婦の間に未成年の子がいれば,夫婦のいずれか一方が子の親権者となりますが,妻が親権を望めば,よほどの事情(妻が子を虐待していたなど)がない限り,親権は妻に帰属します。たとえば,妻よりも夫の方が子に対する愛情が深く,夫には何の落ち度もなく,妻の不倫によって夫婦不仲となって離婚しても,妻が親権を望めば,親権は妻に帰属するのが基本です。これは,従来からの裁判実務で「母性優先」という考え方に基づくものです。しかし,「男女共同参画」や「男性による育児」が政府により強く推奨され,さらには「ジェンダーフリー」論が社会で広まってきている中で,男性が親権を希望する場面では男女同等の扱いをしないというのは不合理ではないかと思います(決して「母性優先」や「ジェンダーフリー」論を全面的に否定するわけではありませんが,整合性がとれていないと思います)。

 また,妻に親権が帰属しても,夫は離婚後に子と面会交流する権利が認められていますが,一般的には月1回数時間程度の面会に限定され,妻が面会に協力的でなければ,その限られた面会すらも実現されないケースは多々見られます。

 さらに,妻に親権が帰属した場合,子が成人に達するまで(場合によっては大学卒業まで),夫は妻に対し子の養育費を支払わなければなりません。養育費は,子の監護養育のために使われるべきであって,本来は妻の生活費や娯楽費に使われるべきものではありませんが,妻がいちいち支出の明細を明らかにする必要はないので,事実上は妻の生活費や娯楽費に使われることにもなります。また,養育費の金額は,「養育費・婚姻費用算定表」に従い,基本的に夫婦相互の収入と子の人数・年齢によって機械的に算出されますが,妻が児童手当その他公的扶助を受けたり,離婚後に就職して収入を得たりしても,減額されることはなく,一度決められた養育費を変更することは難しいとされています(逆に,離婚後に夫の収入が増えても養育費が増額される可能性は低いともいえます)。

 なお,妻の不倫で離婚した場合,夫は妻や不倫相手に対して慰謝料を請求できますが,一般的には総額100万円(多くてもせいぜい300万円)程度であり,夫が妻に支払う財産分与や養育費に比べれば微々たる金額です。

 つまり,妻は,夫の資産や収入如何によっては,実質的に何の経済的痛手を負うこともなく,不倫したうえで,子の親権を獲得して離婚することができます。もちろん,夫に何の落ち度もなく,夫が離婚を拒否すれば,直ちに離婚することはできませんが,別居が長期間(数年)継続すれば,訴訟において,婚姻関係が破綻したと見なされて離婚が成立する可能性が高いといえます。さらに,離婚成立までの別居期間中,収入の少ない妻は,夫に対して婚姻費用(生活費)を請求できます。そのため,妻が別居を強行すれば,夫は,「兵糧攻め」をされているような状況が続き,長期間にわたって婚姻費用を支払わされた挙句に離婚されるのであれば早めに離婚した方がいいと判断し,妻の思惑どおりに事が進むケースが多いといえます。

 昨年(平成29年),「損する結婚,儲かる離婚」(新潮新書・藤沢数希著)という著書が出版されましたが,この著書でも,このような結婚(離婚)制度の問題点が指摘されていました。この著者は法曹関係者(弁護士等)ではありませんが,その認識・見解は決して特殊なものではありません。今や離婚も珍しいことではなく,身の回りに離婚した友人や知人が何人かいるというのが普通でしょうから,離婚した友人や知人の話を聞いて,日本の離婚制度の不合理性を感じている人々も少なくないと思います。

 もちろん,それは多くの弁護士が常日頃から感じていることです。そうは言っても,これが日本の離婚制度の現実です。弁護士としては,法制度や裁判実務の不合理性を感じながらも,依頼者の代弁者(代理人)として,依頼者の意向に沿った主張をしなければなりません。ときには,不合理であると感じる法制度や裁判実務に則った主張をすることもあります。これに対しては,「良心の呵責や不正義を感じないか」と問われるかもしれません。しかし,裁判(調停,審判,訴訟など)は,弁護士が自らの個人的な正義感や価値観を訴える場ではなく,あくまでも法制度や裁判実務(法が「正義」とするところ)に則って,依頼者の利益のために主張立証する場です。したがって,この点については,弁護士として良心の呵責や不正義を感じることはありません。

インパクトのある法制度改革や施策が必要

 これに対し,政治家や裁判官は,現在の法制度や裁判実務を見直すべき立場にあります。裁判官は,法律解釈の枠を超えた判断をすることはできませんが,その枠内で従前の判断を変更することもできます。したがって,政治家や裁判官は,今の日本の結婚(離婚)制度がこのままでいいのか,検討しなければならないと思います。

 少子化・人口減少問題やその原因である非婚化問題については,保育施設や育児休暇の充実,教育費の公的負担の拡充,夫が育児に参加しやすい環境の整備など,さまざまの施策が講じられています。これらの施策は,現に子を養育している人々の助けにはなります。また,場合によってはある程度の出産を促すかもしれませんが,いずれの施策も根本的な解決にはならないと思います。

 結婚や出産をするというのは,人生の決断において,一生の幸不幸を左右する最も大きな問題であるといっても過言ではありません。多くの人々が,多少の経済的・物理的条件の改善だけで,しかも,長く(少なくとも自分の子が成人に達するまで)続くかどうかも分からない施策によって,そのような重大な人生の決断を促されるとは思えません。しかも,結婚や出産をしない選択が普通のことになった現在において,多くの人々に結婚や出産を促すためには,国民の価値観や常識を覆すほどのインパクトのある法制度改革や施策が必要になると思います。

 まずは,大胆な教育支援策が必要です。

 多くの人々は,子どもを持ちたくないと思っているわけではなく,やはり子どもの教育に多額の費用がかかることがネックとなって,子どもを持つことや2人目,3人目の子どもを諦めているのだと思います。特に,私立中学・高校への進学や大学進学が普通のことになった現在では,子どもの希望に応じてそのような教育を受けさせたいと思うのが親心であり,子どもに「普通の教育」を受けさせるのにも多額の費用がかかります。したがって,親の経済力に拘わらず,すべての子どもが経済的不安なく希望どおりの教育を受けられるように,これまでのような小手先の就学支援ではなく,教育に対して大胆に予算を振り向けた教育支援策をとるべきです。そして,これを一時的な政策にとどめるのではなく,恒常的な基本政策として確立すべきです。このような教育支援策が恒常的に確立すれば,離婚後に親権を持たない親が負担すべき養育費も大幅に引き下げられ,養育費負担に伴う不合理な問題(養育費が親権者自身の生活費や娯楽費に使われるなど)も解消できるはずです。

 子どもを教育することは基本的に各家庭の責任であるというのが従来の考え方であると思います。しかし,子どもは将来の日本社会を支える存在であって,教育は,将来の社会を担う構成員を育てるという意味を持ちますから,すべての国民が恩恵を受けることです。したがって,教育は,各家庭の責任だけではなく,国の重要な責務でもあると考えるべきです。

 このような教育支援策をとるためには,大幅な増税が必要になると思います。そもそも日本は主要先進国に比べて国民の税負担が大きいわけではなく,国の歳入に占める税収比率の低さ(50%~60%)と財政の不健全性は異常であって,いずれにしても大幅な増税は避けられません。しかも世代が下がるに従って税負担が重くなっていくことが予想されます。したがって,子どもを受益者とする教育支援策は,世代間の税負担の不公平を是正するという意味でも合理的です。

 また,国が十分な教育支援をして少子化解消・人口増加につながれば,経済の活性化,税収増にもなって高齢化社会を支え,やがては高齢化社会の解消(増加の一途をたどる医療・年金その他社会保障費の抑制・削減)にもなり,国民全体(子どもを持たない人々も含めて)の利益にもなります。つまり,教育政策は,国家の基盤づくりの根幹であって,あらゆる問題に波及的効果を与えるものであると思います。そのことを十分に説明すれば,国民の理解も得られるのではないかと思います。

 次に,不合理かつ不公平な結婚(離婚)制度の是正が必要であると思います。

 現在の日本では婚外子が一般的でないため,出生率・出生数を上げるためには,多くの国民(特に若者)の結婚を後押しして,非婚化の流れを阻止する必要があります。

 結婚していない人々(特に若者)の多くは,絶対に結婚したくないと考えているわけではなく,条件が整えば結婚したいと考えています。そのような人々の結婚を妨げている外的・環境的要因の一つは経済事情であり,その中でも特に大きいのが,将来子どもを持ったときの教育費の負担です。これについては,先ほどの教育支援策で解決できます。

 もう一つの問題は,不合理かつ不公平な結婚(離婚)制度であると思います。

 結婚を考えている人々のうち多数派は,結婚前に離婚まで想定しておらず,結婚したら一生添い遂げようと考えるのが普通でしょう。そうであれば,たとえ離婚の際の問題(財産分与や親権・養育費の不合理・不公平)があったとしても,結婚するか否かには影響を与えないとも思えます。しかし,現実的には離婚率・離婚数は決して少なくなく,離婚するか否か(婚姻関係を継続するか否か)は自分の意思だけでは決められません。そのような現実を目の当たりにすると,結婚する前に離婚の可能性についても考えざるを得ません。そして,先ほどのような結婚(離婚)制度の不合理・不公平を知れば,結婚を躊躇してしまう人も少なくないのではないかと思います。特に,離婚経験のある人は,離婚の際に財産分与や親権・養育費の問題で不合理・不公平な扱いを受けたのであれば,なおさら,再婚したいと思っても躊躇してしまうのではないかと思います。

 ここで,あまりにも気の毒な結婚(離婚)の実例を紹介すると,独身時代には経済的に豊かで幸せな生活を送っていた人が,とんでもない相手(もちろん結婚するまでは「いい人」でした)と結婚してしまったがために,とにかく早く離婚したいと思って,代理人(弁護士)をつけないまま相手の要求をそのまま受け入れて離婚し,その結果,それまで形成してきた財産を奪われ,多額の養育費を負担させられ,長年にわたって精神的にも経済的にも追い詰められた生活を送り続けている,あるいは,破産にまで追い込まれた(破産後も養育費の支払いは続きます)というケースも珍しくありません。その一方で,離婚した相手は財産分与と養育費によってゆとりある生活を送っている場合も少なくないため,いっそう強く不合理・不公平を感じます。

 富裕層の人々であれば,結婚に失敗しても生活の破綻を招くようなことはないと思います。しかし,貧困層はもちろん中間層の人々でも,この実例のように結婚の失敗が生活破綻を招くおそれがあり,特に両親その他親族の扶養や介護を抱えているような場合には,独身であれば何とかできていた両親らの扶養や介護も,結婚に失敗したがためにできなくなって,両親らまで路頭に迷わせてしまうということにもなりかねません。日本社会では,中間層が大きく減少し,少数の富裕層と多数の貧困層に二極化しつつあるため,このような結婚リスクを感じる人々が増えてきているのではないかと思います。そして,結婚(離婚)制度の不合理・不公平も,多くの人々にも知られるようになり,それが非婚化進行の大きな要因になっているのではないでしょうか。したがって,多くの国民(特に若者)が結婚して,できるだけ多くの子どもを産み育てたいと思うような環境の整備として,結婚(離婚)制度の不合理・不公平の是正が不可欠であると思います。

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