① テレビCM(宣伝広告力)と「信頼できる」,「有能である」とは別問題です。
多くの方々は,「テレビCMをやっている」,「大勢の弁護士が所属している」,「テレビ番組に出演している有名弁護士である」などの理由で,その法律事務所や弁護士を「信頼できる」,「有能である」と思うかもしれません。
確かに,「テレビCMをやっている」ということは,それだけ多額の宣伝広告費をかけられるということですから,集客力があって儲かっている(流行っている)ということだと思います。しかし,どの業界についてもいえることですが,「集客力があって儲かっている(流行っている)」ことと,「信頼できる」あるいは「有能である」こととは全く別問題です。
② 「流行っている」法律事務所が必ずしも「信頼できる」,「有能である」とはいえません。
たとえば,繰り返し購入するような比較的安価な商品やサービスの場合は,その商品やサービスが価値ないし満足度の高いものでなければ,誰も再度購入しようとしないでしょう。ですから,「集客力があって儲かっている(流行っている)」ということは,その商品やサービスの価値ないし満足度が高いことを裏付ける一つの指標になると思います。
しかし,滅多に購入しないような商品やサービス,特に市場規模が小さく客観的評価の難しい商品やサービスの場合は,必ずしもその商品やサービスの価値や満足度の高さが需要の拡大につながるものではありません。多くの方が「新規顧客」であり,不確実な情報をもとに宣伝広告の上手さだけに魅かれて購入するケースが多いでしょう。その結果,商品やサービスの価値や満足度よりも宣伝広告力が売上を左右することになります。
弁護士ないし法律事務というサービスは,まさに,そのような「滅多に購入しないようなサービス,特に市場規模が小さく客観的評価の難しいサービス」といえます。ですから,「集客力があって儲かっている(流行っている)」ことや宣伝広告に騙されることなく,自分の目でよく見極めることが大切です。
③ 「大規模事務所」に事件を依頼しても,あなたの事件を担当する弁護士は1人(ないし数人)です。
「大勢の弁護士が所属している」,「テレビ番組に出演している有名弁護士である」なども,法律事務所ないし弁護士の信頼性や能力を裏付けるものではありません。
法律事務所の規模(所属弁護士の人数)について,特に注意していただきたいのは,大企業の大型案件でもない限り,法律事務所の規模がどんなに大きくても,依頼された事件を実際に担当する弁護士は1人(多くて数人)にすぎないということです。訴訟になると,多数の弁護士が所属する法律事務所は,訴状や答弁書に所属弁護士の全員あるいは多数の名前を代理人として連ねてくることがよくありますが,ほとんどの弁護士は名前を載せているだけで事件には一切関与していません。
平成29年に国会で森友学園問題が取り上げられた際,当時の稲田朋美防衛大臣(弁護士)が「過去に森友学園(籠池泰典理事長)の訴訟代理人として出廷したのではないか」と質問され,「夫(弁護士)が代理人を務める事件に共同代理人として名前を表示しただけで,実際には一切関与していない」と回答しましたが,後に実際に出廷していたことが明らかとなりました。これが虚偽答弁であると問題になりましたが,おそらく稲田大臣としては本当に記憶になかったのではないかと思います。というのも,弁護士が名前を貸すだけということはよくあることで,実際に関与していない(一度代役で形式的に出廷しただけの)事件など全く関心がなく,いちいち記憶していないからです。そんなものです。
確かに,自分が依頼した法律事務所に大勢の弁護士が所属していれば,特に有能(有名)な弁護士がいれば,安心感はあるかもしれません。しかし,実際には,大勢の弁護士や有能(有名)な弁護士が自分の事件に関与してくれるわけではないので,自分が依頼した法律事務所に大勢の弁護士や有能(有名)な弁護士がいるということは,必ずしもプラスになるものではありません。
④ あなたの依頼した事件の担当弁護士は「予期していなかった」新人・若手弁護士ではありませんか?
大勢の弁護士が所属する法律事務所に事件を依頼すると,どの弁護士が自分の事件を担当するのか分かりませんので,かえって「失敗した」ということにもなりかねません。
上客や大型案件であれば,その事務所も力を入れて多数の弁護士や有能な弁護士が担当してくれるかもしれません。しかし,一般市民が依頼するような通常の事件であれば,新人や若手の弁護士が担当者になることが多いと思います。その結果,依頼者としては,特定の弁護士に事件を担当してもらうことを期待して,その弁護士が所属する法律事務所に依頼したにもかかわらず,よく知らない新人弁護士が担当者になったという不満を聞くこともよくあります。そうすると,せっかくよく吟味して有能と思われる弁護士が所属する法律事務所を選んだのに,何の意味もなかったということにもなりかねません。
もっとも,新人・若手弁護士が事件を担当する場合でも,有能な中堅・ベテラン弁護士がきちんと指導・監督してくれる法律事務所であれば信頼できると思います。
⑤ 法律事務所に所属する新人・若手弁護士と中堅・ベテラン弁護士との人数比率には注意してください。
ここで注意していただきたいのは,法律事務所に所属する新人・若手弁護士と中堅・ベテラン弁護士との人数比率です。中堅・ベテラン弁護士が新人・若手弁護士をきちんと指導・監督するには,それなりの人数の中堅・ベテラン弁護士が必要になります。したがって,中堅・ベテラン弁護士の人数に比べて,新人・若手弁護士の人数が異常に多いような法律事務所は要注意です。必ずしも新人・若手弁護士がダメというわけではありませんが(中堅・ベテラン弁護士よりも一生懸命仕事をして良い結果を出している方もいると思います),少なくとも,このような法律事務所が他の法律事務所よりも専門性が高いかのように謳っていることには疑問です。
法律事務所のホームページを見ると,何十人もの弁護士が所属しているにもかかわらず,中堅・ベテラン弁護士が1人ないし数人しか所属していないという事務所をよく見かけます。最近では,代表弁護士でさえ弁護士登録して数年程度の若手弁護士で,多数の新人・若手弁護士を雇っているという法律事務所も多数存在します。
あなたが依頼しようとしている法律事務所は大丈夫ですか。依頼する前に確認してみてください(新人・若手弁護士と中堅・ベテラン弁護士との見分け方,弁護士の経験年数の調べ方については,後述の「どのような基準で弁護士を選べばいいのか?」をご覧ください)。