⑴ 本件のポイント(事件処理の流れと報酬基準)
本件は,被疑者(犯人)が深夜に駅のホームで寝込んでいた人(被害者)から財布を盗み取ったところ(いわゆる仮睡盗),その様子を目撃した駅員に呼び止められ,その直後に逮捕されたという事案です。仮睡盗には常習犯が多く,行為態様からも,窃盗の中で比較的悪質性が高いと見られていますが,本件被疑者には前科前歴はなく,常習性もなく,犯行当時,酒に酔っていて犯行に及んでしまったようです。
事件処理の流れは次のとおりです。
- 当事務所の弁護士は,逮捕当日の午前中に被疑者の親族から電話連絡を受けて直ちに受任しました(時間的余裕がなかったため着手金は事件解決後に支払い)。夕方まで予定が埋まっていた(変更できない)ため,午後7時頃に警察署に行って被疑者本人と接見(面会)し,事件の状況や本人の身上・家庭・仕事関係等について事情聴取するとともに,本人から弁護人選任届を取り付けました。
- その後,いったん事務所に戻って,親族からも電話で家庭・仕事関係等について聞き取りをしながら,徹夜で検察官への申入書(勾留請求せず直ちに釈放を求める旨の書面)を作成しました。
- 翌早朝に,親族宅へ行って身元引受書に署名捺印してもらい,午前中には,弁護人選任届,申入書及び身元引受書を持って検察庁に行き,担当検察官と面談して,「速やかに被害者と示談するので,勾留請求せずに釈放してほしい」と申し入れたうえで,被害者と示談するために連絡先を教えてほしいと要請をしました。
- その約1時間後に担当検察官から電話があり,被害者の了解があったとして連絡先を教えてもらいました。そこで,直ちに被害者に電話連絡して,できるだけ早急に面談したい旨伝えたところ,すぐに時間を取ってくれるとのことでしたので,直ちに指定場所に赴いて被害者と面談しました。
- 被害者との面談では,被疑者の謝罪と反省の弁を伝えるとともに,被疑者の事情も伝えて示談してほしい旨述べたところ,被害者も示談に応じてくれるとのことでしたので,その場で示談金を支払って(時間的余裕がなかったため弁護士が立替え),示談書に署名してもらいました。
- その足で直ちに検察庁に戻って,午後2時頃に担当検察官と面談し,示談書を提出したうえで改めて早期釈放を求めたところ,担当検察官からは,勾留請求せずに本日中に釈放する旨の回答をもらいました。その後,午後4時過ぎに被疑者は釈放されました。
- 被疑者はある会社に勤務する正社員ですが,勤務先には親族から「体調不良で数日間欠勤する」と届出をし,逮捕当日と翌日の2日間を欠勤しただけで,その後は,勤務先に逮捕の事実を知られることもなく,これまでどおりに職場復帰することができました。
当事務所の報酬基準では,本件の弁護士費用は,着手金が20万円(消費税別),報酬が20万円(消費税別)となります(弁護士費用のページをご参照ください)。なお,インターネット上で「刑事事件専門」や「刑事事件に強い」としてよく見かける,ある法律事務所の報酬基準に当てはめると,本件では,示談成立,勾留阻止及び不起訴の各報酬が重複して三重に発生するようです。しかし,依頼者の目的は「早期釈放」という1個の結果であって,示談は不起訴や勾留阻止のための手段にすぎず,また,不起訴(早期釈放)を目指す中で勾留阻止も実現できただけですので,当事務所では,1個の「早期釈放」という成果として,成功報酬は20万円(消費税別)しか発生しません。そのほか,接見費用や日当なども発生しません。
⑵ 本件の詳しい説明(刑事事件で早期釈放を求めるケースでの弁護士選びの注意点)
① 本件を紹介事例として選んだ理由
一般の方々が私選弁護人として弁護士を探す事件で多数を占めるのは,本人や身内が突然逮捕されて早期釈放を求めるというケースです。その中でも特に多いのが,暴行・傷害事件,窃盗事件,迷惑防止条例違反事件(痴漢事件,盗撮事件等)などのうち,本件のように比較的軽微な事案で,被疑事実を認めて(自白して)示談成立により早期釈放(勾留阻止,不起訴,略式命令)を求めるというケースです。
刑事事件の中には専門性の高い事件もありますが,本件の事件処理の流れをご覧になれば明らかなように,この手の事案は,弁護士業務としては極めて単純で難しいものではなく,言ってみれば「誰がやっても同じ事件」で,弁護士の能力(実務経験や実績)はあまり関係ありません。その点で,本件は,特筆すべき解決事例ではなく,弁護士として特に誇れるようなものではありません。
では,なぜ本件を紹介事例として選んだのかというと,特に本件のような簡易な刑事事件について,多くの方々が弁護士の選び方を誤解しているのではないかと思われるからです。多くの方々は,本件のような簡単な事件も含めて「刑事事件は専門性が高い」と誤解したうえ,弁護士の能力の判断基準もよく分からないまま,「刑事事件専門」や「刑事事件に強い弁護士」といった言葉を信じて,このように名乗っている弁護士に事件を依頼しなければならないと思い込み,他の弁護士よりも高額な弁護士費用(着手金,報酬等)を支払っているケースも多いのではないかと思います。
なお,多くの法律事務所が報酬基準の中で「簡易な刑事事件」をそうでない事件よりも低額に料金設定しています。しかし,「簡易な刑事事件」の意味が必ずしもはっきりせず,極めて限定的に捉えている事務所も多いようです。私としては,起訴前の刑事事件で示談成立等によって早期釈放(勾留阻止,不起訴,略式命令)が認められるような事案はすべて「簡易な刑事事件」であると思うのですが,他の法律事務所の考えではそうでもないようですので,事件を依頼する前に十分確認した方がいいと思います。
一概にはいえませんが,インターネット上でよく見かける「刑事事件専門」や「刑事事件に強い弁護士」と名乗る法律事務所の所属弁護士の経歴(弁護士の登録番号や登録年数)を確認すると,実務経験の浅い新人・若手弁護士が多数を占めています。これで本当に「刑事事件専門」や「刑事事件に強い弁護士」なのかとも思いますが,その真偽はともかくとして,本件のような簡易な刑事事件は「誰がやっても同じ事件」ですので,「刑事事件専門」や「刑事事件に強い弁護士」という言葉に惑わされる必要はありません。
また,このような法律事務所の弁護士費用(着手金,報酬等)は,その他の法律事務所よりも高め(場合によっては著しく高額)に設定されている場合が多いように思われます。刑事事件で早期釈放(勾留阻止,不起訴,略式命令)を求めるケースでは,依頼者は,前科を免れ,あるいは,会社の解雇を免れるという成果を得られるため,高額な弁護士費用を支払っても「高くない」と錯覚しているのかもしれません。しかし,弁護士としての労力や成果という点で見れば,他の事件に比べて著しく割高な弁護士費用が設定されている場合が多いように思われます。
当事務所の報酬基準を見ると,特に起訴前の刑事事件では,報酬基準を高く設定している法律事務所に比べてかなり低額であるため,「何かあるのではないか」と疑念を抱く方もいるかもしれません。しかし,当事務所としては,弁護士の労力や成果を考慮し,十分な金額であると判断して報酬基準を設定しています。本件の事件処理の流れをご覧になれば明らかですが,起訴前の刑事事件(多くは本件のように早期釈放を求める事案)は,他の事件に比べて,短期間で手間暇かけずに終結することが多く,弁護士の能力を駆使するというほどのものでもありません。このような簡易な事件で,10~20日間,場合によっては2~3日で解決したのに,総額100万円も200万円もの着手金・報酬をもらうというのは,逆に気が引けます。
詳しくは以下で述べますが,特に起訴前の刑事事件(本件のように早期釈放を求める事案)では,弁護士の能力(実務経験や実績)があまり関係ないだけに,「刑事事件専門」や「刑事事件に強い弁護士」という言葉に惑わされず,弁護士費用(着手金,報酬等)に注意して弁護士を選んだ方がいいと思います。この手の事件では,ほとんどの法律事務所が「刑事事件専門」や「刑事事件に強い弁護士」などと名乗っていなくても普通に受任していますし,弁護士費用(着手金,報酬等)も「刑事事件専門」や「刑事事件に強い弁護士」と名乗っている法律事務所よりも低額である場合が多いのではないかと思います。
② 刑事事件で早期釈放(不起訴・略式命令)を求めるケースでは何よりも迅速な行動力が重要です。
弁護士選びの基準としては,迅速な行動力や誠実さも重要です。特に,本件のような事案では,弁護士の能力(実務経験や実績)はあまり関係なく,何よりも迅速に対応してくれることが重要です。
暴行・傷害事件,窃盗事件,迷惑防止条例違反事件(痴漢事件,盗撮事件等)などでは,本件のように比較的軽微な事案で,被疑事実を認めて(自白して)示談成立により早期釈放(不起訴,略式命令)を求めるというケースは多いと思います。
このような事案は,緊急性を要しますが,弁護士業務としては極めて単純で難しいものではなく,弁護士の能力(実務経験や実績)はあまり関係ありません。一応,検察官や被害者との間で交渉をしますが,それも高度な交渉能力を必要とするわけではありません。
ただ,被害者との間で早期に示談が成立するかどうかがポイントですので,被害者の反感を買ったり気分を害したりしないように低姿勢で真摯に示談交渉に臨めるか,短時間にフットワーク良く動けるだけの機動性や時間的余裕があるかが重要になってきます。その点では,高圧的な態度を取る(そのように見える)弁護士や,親近感を持てない弁護士,あるいは,相談・依頼を受けて直ちに動こうとしない弁護士(契約書作成や着手金支払いがなければ頑として動こうとしないなど)や,時間的余裕のない弁護士は,このような事案に向いていないかもしれません。
本件ではたまたま運よく逮捕翌日に釈放されましたが,なかなか被害者と連絡が取れず,連絡が取れてもすぐに会ってくれない場合もあり,必ずしもうまく事が運ぶとは限りません。
私も,本件の相談を受けたとき,この先1~2週間のスケジュールを確認して,ある程度の時間的余裕があり,特に逮捕翌日には夕方までほぼ丸一日を使うことができたので,本件を引き受けました。運よく被害者の対応にも恵まれたので,イメージどおりの解決を図ることができました。仮にこのとき時間的余裕がなければ,本件の依頼を断っていたことでしょう。
なお,「刑事事件専門」や「刑事事件に強い弁護士」と名乗っている法律事務所であるからといって,他の法律事務所よりも迅速に行動してくれるわけではありませんので,事件を依頼する前に,この先20日間(勾留延長満期)程度の担当弁護士のスケジュールを確認して,迅速に動いてくれるのかをよく確認した方がいいでしょう。
③ ホームページ上の「刑事事件専門」や「刑事事件に強い弁護士」とは,いったい何なのか?
暴行・傷害事件,窃盗事件,迷惑防止条例違反事件(痴漢事件,盗撮事件等)などで早期釈放(勾留阻止,不起訴,略式命令)を求めるような事案では,じっくり弁護士を選んでいる暇がないため,よく分からないまま「刑事事件専門」や「刑事事件に強い弁護士」などと名乗っている弁護士・法律事務所に事件を依頼しようと思う方も多いのではないかと思います。しかし,「刑事事件専門」や「刑事事件に強い弁護士」というのが本当かどうか分からないですし,「刑事事件専門」や「刑事事件に強い弁護士」だからかどうかわかりませんが,高額な着手金・報酬を設定している法律事務所もあるようなので,注意が必要です。
ホームページ上で「刑事事件専門」や「刑事事件に強い弁護士」などと謳っている法律事務所の中には,「刑事事件は専門性が高いため,専門的能力を有する限られた弁護士しか適切に対応できない」かのように述べたうえで,「自らがその限られた専門的能力を有する弁護士である」かのように宣伝広告しているところを数多く見かけます。
このような宣伝広告は,多くの方々に誤解を与えていると思います。
刑事事件の中でも,たとえば,贈収賄事件や大きな経済事犯(詐欺,業務上横領,特別背任等)など,特捜が関与するような事件は,確かに専門性が高く,私を含め一般の弁護士には対処しがたいことも多いと思います。実際に,このような事件では,長年の検察官経験のある弁護士(いわゆるヤメ検)の中でも,人脈と経験に富んだ弁護士が弁護人に選任されるケースが多いようです。
このような刑事事件に多数の実績がある弁護士が「刑事事件専門」や「刑事事件に強い弁護士」と名乗るのであれば,多くの方々も納得することでしょう。
しかし,ホームページ上では,暴行・傷害事件,窃盗事件,迷惑防止条例違反事件(痴漢事件,盗撮事件等)などで,示談成立等によって不起訴や略式命令で終結したケース(先ほどの「誰がやっても同じ事件」)を,主な「解決事例」や「実績」として挙げ,専門性の高い事件の実績が一つもない(少なくとも「実績」として表示されていない)中で,「刑事事件専門」や「刑事事件に強い弁護士」などと謳っている法律事務所を数多く見かけます。
事務所の経営戦略として,暴行・傷害事件,窃盗事件,迷惑防止条例違反事件(痴漢事件,盗撮事件等)などで早期釈放(不起訴や略式命令)を求めるような事件を多数集客したいという気持ちは分かります。このような事案は,弁護士業務としては極めて単純で難しいものではなく,手間暇かけず短期間で済ませられるので,効率的に稼ぐのに適したものだからです。
このような事案はいわば「誰がやっても同じ事件」ですので,このような事案に限っていえば,実務経験や実績に乏しい弁護士が「刑事事件専門」や「刑事事件に強い弁護士」と名乗って,依頼者に誤解を与えて受任したとしても,迅速に対応してきちんと早期釈放を実現すれば,結果的には依頼者に不利益(実害)を与えることはないかもしれません。
しかし,このような法律事務所のホームページ上の「弁護士費用(着手金・報酬)」の記載を見ると,弁護士費用(着手金・報酬)が高めに設定されていることが多いような気がします。それだけならまだしも,弁護活動の成果とはいえない結果(不起訴・略式命令)についてまでも,報酬(成功報酬)を受け取っていると思われるケースが見受けられます。依頼者も了解していれば問題ないのかもしれませんが,私としては,違和感を覚えますし,本当に依頼者がよく理解して納得のうえで報酬を支払っているのか疑問を感じます。
④ 弁護活動の成果とはいえない結果に報酬(成功報酬)が発生するのは妥当か?
日本では,検察官が被疑者を起訴するのに慎重な態度を取り,十分な証拠がなければ被疑者をいったん逮捕・勾留しても起訴せずに釈放するケースも少なくありません(それが日本の有罪率の高さの一因でもあります)。また,たとえば,迷惑防止条例違反事件(痴漢事件など)では,冤罪事件も少なくないためか,最近では,勾留の許否を判断する裁判官も,勾留決定には慎重な態度を取る傾向にあり,検察官の勾留請求を却下することもあります。その結果,弁護活動如何にかかわらず(弁護士が何もしなくても),被疑者が早期に釈放されるケースも決して少なくありません。
このようなケースでは,結果的に被疑者が早期に釈放されても,それは弁護活動の成果とはいえませんので,弁護士として成功報酬を受け取るのはどうかと思います。
私が受任した別の事件ですが,迷惑防止条例違反事件(痴漢事件)で,次のようなケースがありました。
私が当番弁護(各弁護士会が行っている制度で,身柄拘束された被疑者が初回無料で弁護士の接見を受けることができるというもの)で事務所に待機していた当日,前日午後7時頃に満員電車内で痴漢行為をしたとの容疑で逮捕された被疑者からの要請で,東京弁護士会から連絡があったため,私は,被疑者が逮捕されている警察署に接見(面会)に行きました。
被疑者の話によると,全く身に覚えがなく,電車が駅に停車したときに,突然,女性から「触ったでしょ」と言われ,近くにいた駅員に同行して駅員室に行ったところで逮捕されたということでした。被疑者は,ある会社に勤務する正社員で,逮捕の事実が勤務先に知られたり長期間欠勤したりするわけにはいかないので,何よりも早期釈放を実現してほしく,早期釈放が実現されるなら不本意ながら被疑事実(痴漢行為)を認めて示談してもいいと言っていました。しかし,被疑者本人が痴漢をしていないと言っている以上,真実に反して痴漢の事実を認めさせるわけにはいきません。ただ,本人は早期釈放を強く求め,妻の意見も確認したうえで,事件を依頼するか否かも含めて最終的な方針を決めたいとのことでしたので,とりあえずは,本人には否認のまま早期釈放を求める弁護活動をするという方針を伝えました。
被疑者本人との接見後直ちに,本人から聞いた妻の連絡先に電話をして事情を伝えたところ,妻からは,本人の名誉を尊重して否認を貫いたうえで,早期釈放を求める方針で進めてほしい旨の依頼がありました。なお,東京弁護士会では,当番弁護の事件を受任する場合の報酬基準が定められており,被疑者段階の着手金は20万円(消費税別),公判請求されなかった場合(不起訴,略式命令)の報酬は30万円(消費税別)とされています(これらの金額を上回る場合には弁護士会への報告が必要)。
もっとも,契約書の取交しや着手金の支払いを待っていたのでは,事件解決に遅れが生じるため,翌日すぐに,被疑者本人に再度接見し,妻から本件の依頼を受けた旨伝え,本人から弁護人選任届を取り付けました。その日は日曜日のため,検察庁の日直に問い合わせたところ,担当検察官には連絡が取れないとのことでした。時間的に勾留請求までに担当検察官と面会できない可能性が高かったため,勾留決定が出た後の準抗告申立書(勾留決定取消しと勾留請求却下を求める旨の書面)の提出までを視野に入れて,翌日(月曜日)に検察庁及び裁判所(立川支部)に行く予定で準備を進めていました。
ところが,翌日になって妻から電話があり,警察から「本日釈放する」との知らせを受けたとのことでした。結局,釈放までに2回の接見をし,妻からの要請に応じて差入れをし,提出書類等の準備もしていましたが,実質的な弁護活動をする前に被疑者は釈放されました。そのため,着手金を受け取るわけにもいかないと思って,依頼者の希望を確認して委任契約をキャンセルしました。また,初回の接見は当番弁護でもありましたので,2回目の接見はサービスとして,接見費用も受け取りませんでした。
このケースでは,着手金は受け取ってもよかったのかもしれませんが,被疑者釈放は弁護活動の成果とはいえませんので,さすがに成功報酬を受け取るのは宜しくないと思います。
このように,痴漢事件では,被疑者が否認している場合に嫌疑不十分のため不起訴で終わるケースもありますし,いったん強制わいせつ罪(罰金刑がなく迷惑防止条例違反よりも重い)として逮捕され,被疑者が容疑を認めている場合に被害者と示談が成立しなくても,結局は迷惑防止条例違反として罰金刑で終わるケースもあります。これらは,弁護活動の成果というよりも,担当検察官の判断によるところが大きいと思います。
このような場合にまで,成功報酬(しかも比較的高額な報酬)が発生するという法律事務所もあるようですが,どうかと思います。もしかしたら,何らかの弁護活動(意見書の提出等)の成果として不起訴や罰金刑で済んだのかもしれません。そうであるなら報酬が発生するのも当然であると思いますが,この手の事件では,仮に検察官に意見書等を提出していたとしても,示談も成立していないのに不起訴や罰金刑が弁護活動の成果というのは難しい場合が多いと思います。
ある法律事務所のホームページを見ると,「解決事例」として,痴漢事件(迷惑防止条例違反事件)で被害者が面会を拒否し(処罰感情が強いと思われる),示談の話合いすら行われなかったが罰金刑で済んだという事案について,抽象的に「弁護活動を尽くした結果,罰金刑で済んだ」と記載しているだけで,具体的に「どんな弁護活動を尽くしたのか」を示さないで,成功報酬を受け取ったというケースも紹介されています。しかし,仮に不起訴や罰金刑が弁護活動の成果であるというなら,具体的にどのような弁護活動をしたのかを示すべきです(少なくとも依頼者に対しては)。
薬物事件や比較的軽微な傷害事件なども同じです。薬物所持事件で被疑者が否認している場合に嫌疑不十分のため不起訴で終わるケースもありますし,比較的軽微な傷害事件であれば,示談が成立しなくても不起訴で終わるケースもあります。これらも,弁護活動の成果というよりも,担当検察官の判断によるところが大きいと思います。
また,起訴後の事件(被告事件)で,量刑相場を考慮せず,単に「執行猶予判決を得た」,「実刑判決が求刑を下回った」というだけで成功報酬(しかも比較的高額な報酬)が発生するという法律事務所もありますが,このような結果は弁護活動の成果といえない場合が多いと思います。たとえば,覚せい剤所持・使用事件では,初犯であれば「懲役1年6月執行猶予3年」というのがお決まりの量刑相場で,執行猶予判決になるのは当たり前であって,弁護活動如何によって結論が変わることはありません。どんな犯罪でも,大体の量刑相場というものがあり,特に自白事件では,弁護活動如何によって結論が変わることはほとんどないと思います。また,実刑判決の場合には「求刑の8掛け(8割)」というのがごく一般的ですので,通常の事件で求刑の8割の実刑判決になったことを「成果」としてアピールするのもどうかと思います。
刑事事件(特に早期釈放を求めるような事案)では,じっくり時間をかけて弁護士を選んでいる暇はありません。しかし,「刑事事件専門」や「刑事事件に強い弁護士」という言葉に惑わされず,弁護士費用(着手金・報酬)に関して,金額の多寡はもちろん,どのような場合に成功報酬が発生するのかについても,事件を依頼する前に十分確認した方がいいと思います。
法律事務所によっては,タケノコ商法のように,着手金のほかに,成功報酬が事細かく定められ,不可分あるいは付随的な結果についても1個1個に分けて,その結果ごとにいちいち「成功報酬」が発生し(1つの事件で示談成立,勾留阻止,不起訴それぞれに報酬が発生するなど),毎回の接見についても時間単位の接見費用・日当などが加算され,思いのほか高額になって,事件終結後に請求書を出されたとき報酬の高さに驚かされるということがあるかもしれません。
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