③ 離婚慰謝料150万円(うち不貞慰謝料30万円)と不貞慰謝料170万円の二重請求を認めた第一審判決を控訴審で覆した事件(和解) | 専門分野と弁護士費用の疑問に答えます
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③ 離婚慰謝料150万円(うち不貞慰謝料30万円)と不貞慰謝料170万円の二重請求を認めた第一審判決を控訴審で覆した事件(和解)

1 本件事案の争点と第一審判決

本件は,Xの妻ZとYとが不貞関係にあったとして,XがYに対し不貞慰謝料330万円(弁護士費用を含む。)の支払いを請求したという事案です。
 なお,本件訴え提起時点で,XがZを相手方として申し立てた夫婦関係調整(離婚)調停が進行中でしたが,本件第一審判決前に同離婚調停が成立しました。同調停条項では,ZがXに対し「慰謝料」として150万円を支払う旨定められましたが,「慰謝料」の中身は明確にされませんでした。

本件訴訟の争点は,①YとZとの間に一定の交際関係(手を繋ぐ,キスをするなど)があったことを前提として(同事実はYも認めています。),その他行為態様又は違法性の程度(性交渉の有無,交際期間又は継続性等)(第一審判決・争点1),②YとZとの交際関係(不法行為)によるXの損害の評価額(第一審判決・争点2),③Zが離婚調停に基づいてXに支払った「慰謝料150万円」による損害填補とその評価額(第一審判決・争点3)です。

第一審は,本件不貞慰謝料としての相当額は200万円であると認定しました。そのうえで,同200万円のうち30万円は,Zが離婚調停に基づいてXに支払った「慰謝料150万円」によって填補された(逆に言えば「慰謝料150万円」のうち不貞慰謝料相当額は30万円にとどまる)として,Yに対し,残額170万円に弁護士費用(その1割相当17万円)を加えた合計187万円の支払いを命じる旨の判決を言い渡しました。
 第一審判決の詳細については,「第一審判決」をご覧ください(※準備中)。

2 当事務所弁護士(Y代理人)の主張と控訴審での和解成立

第一審判決については,そもそも本件不貞慰謝料として200万円を認定したこと自体が,過去の同種裁判例と比較してあまりにも高額で不相当です。ただ,それ以上に問題なのが,Zが離婚調停に基づいてXに支払った「慰謝料150万円」のうち不貞慰謝料相当額は30万円にとどまる旨認定した点です。この点については,単なる価値判断ないし評価の問題だけではなく,論理的に見て明らかに不合理です。
 そこで,Yは,第一審判決に対して控訴し,次のとおり主張しました。その詳細については,「控訴状」及び「控訴理由書」をご覧ください(※準備中)。

まず,第一審判決は,「不貞慰謝料」と「離婚慰謝料」とを区別して,ZがXに支払った「慰謝料150万円」は「離婚という結果そのものに対する慰謝料」(離婚慰謝料)が大半を占め,「YとZとの交際に対する慰謝料」(不貞慰謝料)としての趣旨は限定的であって,30万円(支払額の2割)にとどまる旨認定しました(第一審判決9頁11行目以下)。
 しかし,不貞慰謝料と(不貞を原因とした)離婚慰謝料とは,概念的に区別することができるとしても,実質的には大部分で重複します。実際上も,Xは,離婚調停において,専らYとZとの交際(不貞行為)を離婚原因として主張し,これを理由に慰謝料を請求していました。したがって,XとZとの間で合意された慰謝料(150万円)が「YとZとの交際(不貞行為)に係る不貞慰謝料の大半を除外する(同慰謝料は慰謝料全体の2割にとどめる)」という趣旨であると理解するのは,あまりにも不自然・不合理であって,当事者の合理的意思に反します。

さらに,第一審判決は,YとZとの交際期間(不貞行為の期間)を「最大でも1年程度」(第一審判決7頁20行目)であると認定したうえで,不貞慰謝料として200万円が相当である旨認定しました(同9頁3行目)。同認定額は,過去の同種裁判例から見ても比較的高額な慰謝料認定額ですが,これには,YとZとの不貞行為がXとZとの婚姻関係破綻の原因になったとの認定が大きく影響しています。すなわち,第一審判決は,不貞慰謝料相当額の判断にあたって,XとZとの婚姻関係破綻(両者が離婚に至ったこと)を重要な要素(慰謝料増額事由)として考慮しています(同8頁3行目)。
 ところが,他方で,第一審判決は,ZがXに支払った慰謝料(その大半は離婚結果に対する慰謝料)の中には,上記の不貞慰謝料(離婚結果を増額事由として考慮したはずの慰謝料)としての趣旨が2割しか含まれないと認定しているのです。これでは,離婚慰謝料(ZがXに支払った慰謝料)と不貞慰謝料(YがXに支払うべき慰謝料)との両者において,XとZとの婚姻関係破綻(両者が離婚に至ったこと又は離婚結果)という事実が二重に(重複して)評価されていることになります。
 これによって,Xは,YとZとの交際(不貞行為)及びXとZとの離婚(婚姻関係破綻)という事実について,合計320万円(150万円+200万円-30万円)という破格の慰謝料を手に入れることになります(さらに17万円の弁護士費用が加算されています。)。このような結果は,過去の同種裁判例と比較しても,あまりにも不合理であって不相当に高額です。

控訴審は,以上のような当事務所弁護士(Y代理人)の主張に対して一定の理解を示し,最終的には,YがXに対して「解決金50万円」を支払う旨の訴訟上の和解が成立しました。理屈を突き詰めれば「解決金50万円」でも不相当に高額であるといえますが,第一審で,YがXに対して187万円を支払う旨の判決が言い渡されているという現実があり,控訴審にはXの心情に対する配慮(判決になれば50万円では済まない)も窺われたので,Yは,現実的な判断(上告審で控訴審判決が覆される可能性はほとんどないこと)として,上記のとおり訴訟上の和解をしました。

 

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