1.ホームページに隠された情報を読み解く。 | 専門分野と弁護士費用の疑問に答えます
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1.ホームページに隠された情報を読み解く。

1.ホームページに隠された情報を読み解く。

① ホームページ上の「専門分野」,「実績」,「弁護士費用」などは確かな情報であるとは限りません。

多くの方々は,弁護士を探そう(選ぼう)というとき,どのような基準で選択すればいいのか,よく分からないと思います。その結果,能力があって信頼できる(選ばれるべき)弁護士が選ばれず,そうでない弁護士が選ばれているケースが数多く存在すると思われます。
 弁護士の選択基準として,多くの方々は,「専門分野」,「実績」,「弁護士費用」などを思い浮かべるかもしれません。しかし,ホームページ上に掲げられた「専門分野」,「実績」,「弁護士費用」が確かな情報であるとは限りません。

そもそも弁護士には基本的に「専門分野」はありません。日本弁護士連合会(日弁連)の「業務広告に関する指針」(第3-12⑴)でも,「専門」表示は一般市民に対する誤導のおそれがあるため差し控えるべきであるとされています。「強い」の表示も同様であると思います。詳しくは2018年4月8日のコラム「弁護士探し・選びを考えている方にお勧めの本」をご覧ください。
 ホームページ上の「〇〇専門」や「〇〇に強い弁護士」という言葉は,主に債務整理(過払金,任意整理,自己破産,個人再生,その他借金問題),交通事故,相続(遺言,遺留分,遺産分割,相続放棄),離婚(婚姻費用,親権・養育費,財産分与,慰謝料請求),刑事事件(少年事件を含む)などの分野でよく見かけます。しかし,これらの分野に属する事件の多くは,特に専門性の高いものではなく,いわば「ありふれた事件」で,一般的な法律事務所に所属して一定の実務経験を積んだ弁護士であれば,誰でも一定の事件数をこなしています。これらの分野について「〇〇専門」や「〇〇に強い弁護士」を謳っているか否かによって,必ずしも能力や実績に大きな差があるとは思われません。

たとえば,交通事故の分野では,「かつて損害保険会社側の代理人を務めていたため,保険会社の内情や手の内をよく知っている」として,「交通事故に強い弁護士」を謳っているケースがあります。多くの方々は,「損害保険会社側の代理人を務めていた」と聞くと,それだけで,その弁護士は,希少な存在で,さぞや交通事故に強いのではないか,と思うかもしれません。
 しかし,損害保険会社には,交通事故の示談交渉や訴訟を担当する部署が全国各地に多数存在し,それぞれの部署が複数の提携弁護士(これを「顧問」と自称する弁護士もいますが,誤解を与える表現であると思います)を抱えているので,「損害保険会社側の代理人を務める弁護士」は全国各地に多数存在します。私がかつて勤務していた法律事務所も損害保険会社側の代理人を務めており,私も保険会社側の代理人として多数の交通事故案件を処理してきました。その点では,私もそれなりに保険会社の内情を知っていますが,それによって,保険会社側の代理人を務めた経験のない弁護士よりも,保険会社側の「手の内」を知って有利な解決を導くことができるというわけではありません。
 保険会社の一般的な対応や提示金額基準などは,一定の実務経験を積んだ弁護士であれば誰でも知っているはずですし,個別的な事件の対応は,事件の性質や各担当部署(その代理人弁護士)によって異なります。したがって,「損害保険会社側の代理人を務めていた」経験で知った「手の内」によって,個々の事件の解決を有利に導けるような秘策など存在しないと思います。ましてや,十分な実務経験や実績もないまま「交通事故専門」や「交通事故に強い弁護士」を謳っていることには何の意味もありません。

また,インターネット上で「〇〇専門」や「〇〇に強い弁護士」としてよく見かける法律事務所は,あちこちに複数のサイトを持っていて,一方では「交通事故専門」と謳っておきながら,他方では「相続専門」,「刑事事件専門」,「債務整理専門」,「離婚専門」などと謳っているケースもあります。「すべてが専門」と言いたいのかもしれません。しかし,そうであれば一つのサイトでそのように表示すればいいのですが(「すべてが専門」というのもおかしな話ですが),それぞれのサイトであたかも1つの分野に特化しているかのように謳っているので,多くの方々に誤解を与えているのではないかと思います。
 もしあなたがご覧になっている法律事務所のホームページが「〇〇専門」や「〇〇に強い弁護士」と謳っているのであれば,改めてその事務所名で検索して,他の分野でも「〇〇専門」や「〇〇に強い弁護士」と謳っていないか確認してみてください。たくさんの専門分野が出てくるのではないかと思います。

「相談実績〇〇件」,「解決実績〇〇件」,「〇〇を解決しました」というのも,何の裏付けもなく,本当かどうか分かりません。
 仮に本当であったとしても,それは多数の弁護士が所属する法律事務所全体としての実績にすぎず,実際にあなたの事件を担当する弁護士にどのくらいの実績があるのかは不明です。多数の弁護士が所属する法律事務所であっても,実際にあなたの事件を担当する弁護士はその中の1人(多くても数人)であり,その他大勢の弁護士はあなたの事件には一切関与しないので,同じ法律事務所に所属する他の弁護士の実績は,あなたにとって何の関係もありません。
 先ほどの「ありふれた事件」の「実績」は,一定の実務経験を積んだ弁護士であれば当然といえる程度の実績にすぎず,その「実績」が弁護士の評価を高める事情になるとも思えません。また,難しい事件もあれば簡単な事件もあるので,「解決実績」の件数が多ければいいというものでもありません。膨大な件数の「解決実績」があるということは,簡単な定型的事件を大量に集客して機械的に処理しているだけかもしれません。

ホームページ上に掲げられた「弁護士費用」は,弁護士を選択する際の重要な判断基準になると思いますが,単純にホームページ上の記載だけから比較することはできません。
 事務所によっては,ホームページ上にはごく簡単な説明しかなく,実際には日当,事務費,中間金その他の名目で別途費用がかかり,結果的に高くなるケースもあり得ます。
 また,実際に安価で済んだとしても,「安かろう悪かろう」では結果的に損をする可能性もあります。「安物買いの銭失い」ということもあります。重要なのは適切な法的サービスを受けることであり,安ければいいというものではありません。

② ホームページには,相談者・依頼者の選択を誤らせる形で,重要な情報が隠されている場合もあります。

弁護士側(売り手)と相談者・依頼者側(買い手)との間には,法律や弁護士業界(弁護士の能力・実績等)に関する情報に大きな格差があるため,相談者・依頼者側は,弁護士を選択する際に,弁護士側からの情報提供に依存するしかありません。しかし,弁護士側には自己のサービスの正しい品質(能力・実績等)を相談者・依頼者側に伝えるインセンティブが働かないため,弁護士側は,自らを売り込もうとして,自己のサービス(能力・実績等)を誇大に宣伝することにもなりかねません。その結果,宣伝広告に長けた弁護士が幅を利かせ,逆選択(能力・実績の劣る弁護士が選ばれる現象)が生じます。

実際に,弁護士が自己のサービス(能力・実績等)を誇大に表示し,あるいは,相談者・依頼者側の選択を誤らせるような形で宣伝広告している事例も見られます。先ほどのように,あちこちに複数のサイトを持っていて,一方では「交通事故専門」と謳っておきながら,他方では「相続専門」や「刑事事件専門」などと謳っているというのも,相談者・依頼者側の選択を誤らせるような形での宣伝広告の一つです。

他にも,たとえば,「経歴の中に弁護士としての実務経験(経験年数)を表示していない」というのは,ホームページ上でよく見かけます。これは,虚偽でも誇大表示でもありませんが,相談者・依頼者側の選択を誤らせる原因になります。

実務経験が長ければ能力が高いとは必ずしもいえません。しかし,弁護士の能力は実務経験を積むことによって磨かれるという面もあるので,実務経験に乏しい弁護士は,どんなに頭脳明晰であっても,やはり「弁護士としての能力」という点では未熟な面もあると思います。したがって,実務経験は,皆さんが弁護士を選ぶ際の重要な判断要素の一つになると思います。
 弁護士の扱う事件には,受任から解決までに2~3年を要するというのはよくあることですし,なかには5年を要するという事件もあります(私が経験した相続事件でも約6年を要したものがありました)。そうすると,弁護士登録して5年程度の弁護士は,長期間に及ぶ複雑・困難な事件を最初から最後まで一通り経験したことがない,あるいは,そのような事件の経験に乏しいといえます。
 東京弁護士会が運営する一部の法律相談センターでは,若手弁護士の指導・育成を目的として,若手弁護士がベテラン・中堅弁護士の法律相談に同席して,事件を共同受任するという制度を実施していますが,この制度でも,弁護士登録5年以内の弁護士を「若手弁護士」(指導対象)と位置付けています。

あなたは,ホームページ上の「〇〇専門」や「〇〇に強い弁護士」という表示を見たとき,その弁護士は「〇〇」という分野について豊富な実務経験があると思うのではないでしょうか。ところが,実際には,弁護士登録してわずか数年あるいは登録したばかりの弁護士が「〇〇専門」や「〇〇に強い弁護士」と謳っていることはよくあります。そのような弁護士に限って,自らの経歴の中に実務経験(経験年数)を表示していないことが多いのではないかと思われます。

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