弁護士費用(報酬基準)の「適正価格」の難しさ | 専門分野と弁護士費用の疑問に答えます
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弁護士費用(報酬基準)の「適正価格」の難しさ

1 旧「日弁連報酬基準」の合理性にも疑問があります

弁護士費用(報酬基準)の「適正価格」について,疑義を差し挟む余地のない一義的で明確な答えを示せる人はいないと思います。
 一つの基準として,旧「日弁連報酬基準」があります。これは,かつて公式の統一的な弁護士報酬基準として採用されていたもので,平成16年4月1日に廃止されましたが,現在でも多くの弁護士が採用する(参考にしている)報酬基準です。この報酬基準も,あらゆる事件に妥当する合理的な基準かといえば大いに疑問があります。ただ,他にこれといった合理的な統一基準が存在するわけでもないため,現在でも多くの弁護士が採用しているというのが実情です。当事務所でも,基本的に旧「日弁連報酬基準」を採用したうえで,できる限り合理的な修正を加えています。

当事務所では,しばしば「他の弁護士に事件を依頼して高額な報酬で揉めている」として相談を受けることがあります。そのような相談の際にもよく指摘することですが,旧「日弁連報酬基準」の合理性に関する疑問点について,以下,いくつか具体例を示します。

旧「日弁連報酬基準」では,民事訴訟事件の着手金及び報酬について,基本的に次の①~④のように「経済的利益」の区分ごとに,「経済的利益」に一定の割合を乗じた金額と定めています。たとえば,500万円(着手金の基準となる「経済的利益」)の貸金返還請求の訴えを起こして判決で300万円(報酬の基準となる「経済的利益」)の返還請求が認められた(又は300万円を回収した)場合について見ると,着手金は34万円(500万円×0.05+9万円),報酬は48万円(300万円×0.16)となります(但し消費税は別)。

 

(経済的利益) (着手金) (報酬)
① 300万円以下 8% 16%
② 300万円超3000万円以下 5%+9万円 10%+18万円
③ 3000万円超3億円以下 3%+69万円 6%+138万円
④ 3億円超 2%+369万円 4%+738万円

 

2 弁護士報酬が「経済的利益」に比例することの不合理性とその修正

弁護士の仕事の手間又は難易度は,必ずしも請求額(経済的利益)に比例するわけではなく,請求額が100万円であっても1億円であっても基本的に違いはありません。事案によっては,請求額100万円の事件ほうが請求額1億円の事件よりも手間がかかって困難であるというケースも十分にあり得ます。それにもかかわらず,一律に上記報酬基準に従って,請求額100万円の事件では着手金8万円(消費税別),請求額1億円の事件では着手金369万円(消費税別)になるというのは不合理です。
 たとえどんなに少額な事件であっても,弁護士が最低限やるべき仕事に違いはありません。そのため,多くの弁護士又は法律事務所は,少額事件(経済的利益が一定額を下回る事件)の着手金を一律に10万円,15万円又は20万円にするなど「最低額」を定めています。

他方で,あまりにも高額な事件について,大した手間や困難な事情があるわけでもないのに,上記報酬基準に従って着手金又は報酬を定めるのも不合理であるといえます。そのため,同報酬基準とは別に着手金や報酬の上限額を定め,あるいは,個々の事案で個別の事情に応じて着手金や報酬の割引をする弁護士又は法律事務所も少なくないと思います
 当事務所でも,従前は着手金上限額を159万円(経済的利益3000万円を基準にした額)に定めていました(消費税別)。また,現在でも個々の事案で個別の事情(事件処理の手間又は難易度など)に応じて着手金や報酬の割引をしています。

なお,弁護士の受任事件に対する責任の重さや,弁護士の事件処理によって得られる依頼者のメリットについては,「経済的利益」に比例するのが一般的であるといえます。その意味で,「経済的利益」に比例して着手金及び報酬を定める旧「日弁連報酬基準」にも一定の合理性があると思います。

 

 3 成功報酬は「絵に描いた餅」でも発生するのか

報酬(成功報酬)については,旧「日弁連報酬基準」に従うとしても,①勝訴判決を得ただけで判決認容額を基準として報酬が発生するのか,それとも,②勝訴判決に基づいて実際に回収した金額を基準として報酬が発生するのか問題になります。
 たとえば,貸金返還請求訴訟の原告側の弁護士報酬について見ると,300万円の支払いを命じる勝訴判決を得たものの,実際には100万円しか回収することができなかった場合において,①300万円を基準に48万円(消費税別)の報酬が発生するのか,それとも,②100万円を基準に16万円(消費税別)の報酬しか発生しないのか問題になります。旧「日弁連報酬基準」では,その点が必ずしも明確に規定されていたわけではありません。

しかし,たとえ勝訴判決を得ても実際に回収できなければ「絵に描いた餅」にすぎず,依頼者にとって何の実益もありません。常識的に考えて,このように依頼者が実益を得ていない部分についてまで報酬を請求するのは,あまりにも不当ではないかと思います。
 そのため,多くの誠実な弁護士又は法律事務所は「勝訴判決に基づいて実際に回収した(回収し得た)金額を基準として報酬が発生する」としているはずです。この点については,弁護士と委任契約を締結する際によく確認したほうがいいと思います。昨今「着手金無料を謳って良心的な弁護士を装いながら『絵に描いた餅』に対して報酬を取ることによって結果的に割高の報酬を請求する弁護士」や「何だかんだ理由をつけて過剰に報酬を取りたがる弁護士」もいるようなので注意が必要です

 

 4 控訴した場合に改めて着手金が発生するのか

旧「日弁連報酬基準」では,弁護士報酬(着手金及び成功報酬)は「裁判上の事件は審級ごとに定める」,「同一弁護士が引き続き上級審を受任したときの報酬金(成功報酬)は,特に定めのない限り,最終審の報酬のみを受ける。」と規定されています。
 これら規定を素直に解釈すると,同一弁護士が第一審から引き続き控訴審,上告審を受任した場合は,成功報酬は1回限り(最終審)でしか発生しないとしても,着手金については,審級ごとに(第一審,控訴審,上告審それぞれで)発生すると定めることも可能です。

しかし,控訴審は事実審であり,少なくとも控訴審で改めて事実関係を争う機会が保障されているというのが現行の民事訴訟制度であって,第一審判決に不服のある当事者が控訴したいと考えるのは当然であるといえます。それにもかかわらず,控訴審で改めて着手金が発生するとすれば,依頼者としては,着手金のせいで控訴をためらうということにもなりかねません。
 そこで,審級ごとの受任を原則としながらも,基本的に控訴(相手方が控訴した場合も含む。)の際には着手金は発生しないとする弁護士又は法律事務所も少なくないと思います。他方で,原則的に改めて控訴着手金を取るという弁護士又は法律事務所も少なからず存在するようです。一見すると当初の受任時着手金は安くても,トータルで見ると割高だったということにもなりかねないので注意が必要です。この点については特に,弁護士と委任契約を締結する際によく確認したほうがいいと思います

なお,上告審(上告又は上告受理申立て)については,法律審であって,上告理由又は上告受理申立て理由は極めて限られており,仮に上告又は上告受理申立てをしてもほとんど控訴審判決は覆りません。弁護士としては,たとえ依頼者が上告又は上告受理申立てを希望しても,それに合理的理由が認められない限り,むやみにこれを引き受けるわけにもいきません。
 そこで,上告審については,当然には受任範囲に含めず,これを受任するにあたっては改めて着手金が発生するとしている弁護士又は法律事務所も少なくないと思います。

 

 5 個別の事情(事件処理の手間又は難易度)に応じた弁護士報酬の減額はあるのか

そのほか,個々の事案で個別の事情(事件処理の手間又は難易度など)に応じて着手金又は報酬の減額又は割引をするなど,合理的かつ柔軟な対応がなされるのかという点についても,弁護士と委任契約を締結する際によく確認したほうがいいと思います

たとえば,それなりの手間又は困難が予想される1億円相当の損害賠償請求事件において,請求者側弁護士の着手金については,旧「日弁連報酬基準」に従うと369万円(消費税別)になりますが,交渉段階の受任として同金額を3分の2に減じて246万円(消費税別)として,委任契約を締結したとします。ところが,弁護士が事件に着手したところ,相手方が真摯に対応して予想外に事がうまく進み,わずか3か月程度の交渉だけで,弁護士の能力如何に拘わらず難なく1億円を回収できたとします。
 この場合,成功報酬については,旧「日弁連報酬基準」に従うと738万円(消費税別)になり,交渉段階での解決として同金額を3分の2に減じたとしても492万円(消費税別)になります。そうすると,「交渉事件として着手金,成功報酬それぞれを基準額の3分の2に減じる」としても,着手金及び成功報酬を併せて合計738万円(消費税別)にもなってしまいます。

この「738万円」という金額は,一応,旧「日弁連報酬基準」及び委任契約書に従った「正当な報酬」であるともいえます。しかし,このような場合は,たとえ個別の事情(事件処理の手間又は難易度など)に応じた着手金又は報酬の減額規定が置かれていなかったとしても,着手金又は報酬を相当程度減額又は割引すべきではないでしょうか。実際に,誠実な弁護士又は法律事務所であれば,一定額又は相当程度の減額又は割引をするということも少なくないと思います

逆に,たとえば,500万円相当の損害賠償請求事件において,請求者側弁護士の着手金について,旧「日弁連報酬基準」に従って34万円(消費税別)として,委任契約を締結して弁護士が事件に着手したところ,予想外の手間と困難に見舞われましたが,第一審の開始から終結までに2年ないし3年を要する長期間の訴訟を経て,弁護士の能力と努力によって,何とか第一審で全部勝訴判決を得たとします。ところが,事案の性質上,敗訴してもおかしくない事件で,相手方が控訴して,控訴審では逆に原告側(被控訴人側)の全部敗訴判決になり,上告理由又は上告受理申立て理由もなく,上告等を断念し又は上告棄却判決で判決が確定したとします。

この場合,成功報酬は発生せず,弁護士が着手金34万円(消費税別)だけしか得られないとすると,労力に見合った報酬にはなりません。しかし,だからといって,弁護士は,委任契約書に定めのない着手金又は報酬を請求することはできません。そこで,このような事案では,個別の事情(事件処理の手間又は難易度など)に応じて,あらかじめ着手金等の追加又は増額規定を設け,あるいは,審級ごとの受任を原則として,控訴審段階で改めて着手金を定めるというのが合理的かつ公正であると思います

 

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