弁護士の仕事の性質(職人型)と大規模事務所経営(支配構造)の問題点 | 専門分野と弁護士費用の疑問に答えます
Loading

弁護士の仕事の性質(職人型)と大規模事務所経営(支配構造)の問題点

1 弁護士の仕事の性質は「職人型」です

弁護士の仕事は,基本的に「職人型」であって,多数人で組織的に行うようなものではありません。
 複数の弁護士が所属する法律事務所が事件を受任した場合は,交渉での通知書や,訴訟での訴状,答弁書,準備書面などに,代理人として,その事務所に所属する複数の弁護士名がずらずらと列挙されることが多いですが,名前を挙げた弁護士すべてがその事件に関与するわけではありません。一般の方々はご存じないかもしれませんが,実際に事件に関与するのはごく一部(1~2名程度)にすぎず,その他の弁護士は,自らの名前を挙げておきながら,その事件の存在又は内容すら認識していない(単なる名義貸し)ということも少なくないようです(仮に名前を挙げたすべて又は多くの弁護士が当該事件に関与するとすれば,その人数に応じて多額の弁護士報酬を取らなければ採算がとれません。)。

2 大規模事務所経営(支配構造)とその問題点

一般の方々の中には,法律事務所の大きさ(規模)や所属弁護士の多さに安心感や信頼感を抱いて,「大手」(単に所属弁護士の人数が多いという意味です。)の法律事務所に事件を依頼するという方も少なくないと思いますし,実際にそのような話も耳にします。しかし,多数の人手を要する特殊な大型事件でもない限り,依頼者側にとっては,法律事務所の大きさによるメリット(スケールメリット)は全くありません。逆に,デメリットのほうが大きいと思います。
 というのも,多数の弁護士が所属する法律事務所では,個々の弁護士の「顔」(個性)が見えないことが多く,依頼者は個々の所属弁護士の個性を知ったうえで弁護士を選ぶということができないはずです。結局のところ,よほどの上客や事務所とコネのある顧客でもない限り,法律事務所側の都合によって,手の空いている弁護士(場合によっては見習いや経験の浅い若手弁護士)があてがわれることも少なくないのではないかと思います。
 これに対して,個々の弁護士が自ら経営する個人事務所や,ごく少人数の法律事務所では,依頼者側が弁護士の個性を知ったうえで弁護士を選ぶということができます。さらに,個人事務所やごく少人数の法律事務所であっても,必要に応じて,他の法律事務所の弁護士と協力(共同受任)して事件対応することもできるので,1名又は少人数であるが故のデメリットはありません。
 弁護士の仕事は基本的に「職人型」であって,実際に事件対応する弁護士(1名ないし少人数)の「能力」や「誠実さ」などの個性が重要であるにもかかわらず,なぜか,多くの依頼者は,法律事務所の大きさや事務所自体の知名度などによって「法律事務所」を選んでいる(「弁護士」そのものを選んでいない)ようであり,それが不思議でなりません。多くの方々が法律事務所の規模や所属弁護士の多さに抱く「安心感」や「信頼感」は,何の合理的根拠もない,単なる幻想や錯覚にすぎません。一般の方々は誤解されているかもしれませんが,弁護士その他法曹関係者の間では,特にテレビCMなど多額の宣伝広告費をかけている「大手」法律事務所の「知名度」と「評価」との間には何の相関関係もないことは周知の事実です。

他方で,弁護士側にとっては,次のとおり,法律事務所の規模や所属弁護士の多さには一定のメリットがあります。
 まず,事務所側(経営者弁護士)にとっては,弁護士を労働力として雇って利益を上げるというメリットのほか,経費節約というメリットがあります。複数の経営者弁護士が経費を分担することによって多額の宣伝広告費をかけて集客することができるというメリットも,経費節約に含まれます。これら事務所側(経営者弁護士)のメリットは,事務所の規模や所属弁護士の多さに比例して増大するといえます。
 次に,勤務弁護士側にとっては,自ら事務所経営をするリスクを回避して,固定給その他安定的収入を得られるというメリットがあります。自ら経費負担することなく所属事務所の集客力に依存して仕事を得られるというメリットもこれに含まれます。ただ,その反面(デメリット)として,勤務弁護士にとっては,担当事件(事務所受任事件)をほとんど自分一人で解決したにもかかわらず,その労力又は成果に見合った報酬ないし利益に与れず,固定給その他所定の報酬を得られるにすぎません。また,個人で受任した事件についても,事務所によっては,その売上の一部(場合によっては大部分)を事務所側に取られてしまいます。

このような勤務弁護士のデメリットは,経営者と労働者(被用者)との関係上,当然の結果であるともいえます。ただ,法律事務所(経営者弁護士)と勤務弁護士との関係は,一般的な雇用関係(労働者)とは違って,個々の事件対応を見ると,一つの事件について,多数の被用者(勤務弁護士)が携わってそれぞれ仕事の一部を分担し,組織全体として仕事を行っているわけではなく,「職人型」又は「自己完結型」として,1人の担当弁護士(勤務弁護士)が仕事のほとんど全部を自分だけで行っているという場合も少なくありません。
 そうすると,組織(法律事務所)として事件を受任する必然性はなく,依頼者と担当弁護士とをダイレクトにマッチングすることができれば,なにも大規模な法律事務所が存在する意味はありません。むしろ,大規模な法律事務所の存在が,依頼者と担当弁護士とのダイレクトなマッチング(依頼者による弁護士選択)を妨げ,事務所経営者による「利益の吸い上げ」を生み出し,依頼者のコスト(弁護士費用)増大と担当弁護士の利益減少をもたらしているのではないかと思います。
 だからこそ,自らの力で集客することのできる弁護士は,大規模事務所の経営者の一員になれなければ,早々に独立して自ら事務所を立ち上げることになるのです。そのほうが,依頼者にとっても担当弁護士(実際に事件対応する弁護士)にとってもメリットになります。

ただ,問題は,個々の弁護士の多くに集客力がないということです。その問題を解決することができるのであれば,多くの弁護士が,事務所の個人経営(職人型経営)をベースとして,自ら事件対応した仕事の労力及び成果に応じた利益に与れるということになるのではないかと思います。
 その解決策の一つとして,集客力のある(自ら対応可能な事件数を超えた依頼のある)弁護士が,必要に応じて協力弁護士と共同受任するという体制を整え,個々の弁護士の協力関係ネットワークを広げ,大規模事務所を介さずに(その集客力に依存せずに)依頼者と個々の弁護士とのダイレクトなマッチングを実現する環境を整備することが重要ではないかと思います。
 なお,当事務所としては,大規模な法律事務所にも一定の必要性又は存在意義があることを否定するものではありません。

協力弁護士募集 お問合せ

 

フォームでお問合せ

PAGE TOP